[2015年文献] 食塩摂取量が多く,アルドステロン/レニン比が大きい人では高血圧発症リスクが有意に高い

フラミンガム心臓研究から,一般住民において,アルドステロン/レニン比(ARR)と高血圧発症のあいだには有意な関連があることが報告されている。また,これまでの研究から,ARRと高血圧発症ならびに夜間の血圧上昇との関連が,習慣的にナトリウム摂取量が多い人では強く,少ない人では弱いことが報告されている。このような報告から,ARRの増加(血漿中のアルドステロン増加)が,食塩感受性高血圧発症リスクと関連することが示唆されている。今回,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,ARRと高血圧発症リスクとの関連をナトリウム摂取量ごとに検討した。その結果,ARRが大きい人ほど,高血圧発症リスクが高くなる傾向がみられた。また,ナトリウム摂取量が多い人では,ARRの増加と高血圧発症リスクとのあいだに有意な正の関連がみられ,少ない人ではみられなかった。食塩感受性高血圧発症に,ARRの増加が影響を及ぼす可能性が示唆された。

Satoh M, et al. Association of aldosterone-to-renin ratio with hypertension differs by sodium intake: the Ohasama study. Am J Hypertens. 2015; 28: 208-15.pubmed

コホート
岩手県大迫町(現: 花巻市)に居住し,1997年に健診を受診した35歳以上の1831人のうち,追跡調査への参加に同意した1346人(平均年齢61.5歳,女性65.5%)。そのうちベースライン時に高血圧*であった592人,追跡期間中の塩分摂取量が不明な16人,追跡期間中に健診を受診しなかった130人を除外した608人を2002年から2008年まで追跡した(追跡期間中央値: 6.8年)。
*収縮期血圧/拡張期血圧が140/90 mmHg以上,降圧薬治療中のいずれか,または両方の場合に高血圧と定義した。)

・血漿中のレニン活性(PRA: ng/mL/時)とアルドステロン濃度(PAC: ng/dL)は,ラジオイムノアッセイにより測定した。
・血圧測定は,ベースライン時の健診の際に,オムロンの自動血圧計(USM-700F)を用いて看護師が行った。追跡期間中はオムロンの自動血圧計(HEM-907)を使用した。
・食事からの塩分摂取量は食物摂取頻度調査票のデータから算出した。
・アルドステロン/レニン比(ARR: PAC/PRA)の四分位値により,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類した(ARR[中央値]: 3.5,4.4,6.6,13.0)。

 [Q1]ARR 3.5未満,[Q2]3.5以上5.5未満,[Q3]5.5以上9.2未満,[Q4]9.2以上
結 果
6.8年の追跡期間中に高血圧を発症した人は298人。

◇ 対象背景
・ARRの4つのカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。

 人数(人): [Q1]152,[Q2]149,[Q3]155,[Q4]152
 女性: 57.9%,65.1%,78.1%,84.2%
 年齢(歳): 58.0,57.0,58.4,57.1
 BMI(kg/m2): 22.9,23.6,23.6,23.6(性・年齢調整後P=0.12)
 喫煙歴: 21.1%,16.8%,11.0%,8.6%(P=0.76)
 飲酒歴: 39.5%,37.6%,41.9%,32.2%(P=0.18)
 心血管疾患既往: 4.6%,2.0%,7.7%,2.0%(P=0.89)
 収縮期血圧(mmHg): 123.4,123.3,125.3,123.6(P=0.15)
 拡張期血圧(mmHg): 69.0,69.2,70.6,69.5(P=0.06)
 血清ナトリウム値(mEq/L): 141.7,141.8,142.1,142.1(P=0.11)
 血清カリウム値(mEq/L): 4.3,4.3,4.4,4.3(P=0.17)
 ナトリウム摂取量(mg/日): 4541,4500,4554,4488(P=0.94)
 カリウム摂取量(mg/日): 2424,2481,2479,2480(P=0.95)

・追跡期間中を通して正常血圧であった人と,高血圧を発症した人の対象背景は以下のとおり。

 人数(人): [正常血圧]310,[高血圧]298
 女性: 74.2%,68.5%
 BMI(kg/m2): 22.9,24.0(性・年齢調整後P<0.0001)
 喫煙歴: 14.5%,14.1%(P=0.18)
 飲酒歴: 39.7%,35.9%(P=0.47)
 心血管疾患既往: 3.9%,4.4%(P=0.99)
 収縮期血圧(mmHg): 119.8,128.1(P<0.0001)
 拡張期血圧(mmHg): 67.1,72.1(P<0.0001)
 血清ナトリウム値(mEq/L): 141.8,142.0(P=0.39)
 血清カリウム値(mEq/L): 4.3,4.3(P=0.59)
 ナトリウム摂取量(mg/日): 4364,4685(P=0.19)
 カリウム摂取量(mg/日): 2420,2514(P=0.22)

◇ ARRと高血圧発症リスクとの関連
ARRのカテゴリーごとにみた,高血圧発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。ARRが大きいカテゴリーほど,高血圧発症リスクが高くなる傾向がみとめられた(性別,年齢,BMI,喫煙歴,飲酒歴,脂質異常症,糖尿病,心血管疾患既往,ベースライン時の収縮期血圧,食塩摂取量,健診の受診回数)。

 [Q1: 対照]1,[Q2]1.03(0.73-1.46),[Q3]1.38(0.99-1.94),[Q4]1.44(1.02-2.03),P for trend=0.01

◇ ナトリウム摂取量ごとにみた,ARRと高血圧発症リスクとの関連
ナトリウム摂取量(中央値4102 mg/日以上/未満)ごとにみた,ARRの1 SD増加と高血圧発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。ナトリウム摂取量が多い人では,ARRの1 SD増加と高血圧発症リスクとのあいだに有意な正の関連がみとめられた。

 [全体]1.18(1.05-1.33),P<0.05
  [ナトリウム摂取量が多い人]1.25(1.06-1.48),P<0.05
  [ナトリウム摂取量が少ない人]1.12(0.95-1.33)

◇ 結論
フラミンガム心臓研究から,一般住民において,アルドステロン/レニン比(ARR)と高血圧発症のあいだには有意な関連があることが報告されている。また,これまでの研究から,ARRと高血圧発症ならびに夜間の血圧上昇との関連が,習慣的にナトリウム摂取量が多い人では強く,少ない人では弱いことが報告されている。このような報告から,ARRの増加(血漿中のアルドステロン増加)が,食塩感受性高血圧発症リスクと関連することが示唆されている。今回,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,ARRと高血圧発症リスクとの関連をナトリウム摂取量ごとに検討した。その結果,ARRが大きい人ほど,高血圧発症リスクが高くなる傾向がみられた。また,ナトリウム摂取量が多い人では,ARRの増加と高血圧発症リスクとのあいだに有意な正の関連がみられ,少ない人ではみられなかった。食塩感受性高血圧発症に,ARRの増加が影響を及ぼす可能性が示唆された。


▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.