[2018年文献] NT-proBNP値が高い人では脳卒中発症リスクが高くなるが,その関連は追跡期間が長くなると弱まる

血漿中の脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体(NT-proBNP)値は,心不全や急性冠症候群のバイオマーカーとして使用されている。また,一般住民を対象としたコホート研究のメタ解析によると,5年間の追跡期間内では,NT-proBNP値ならびにBNP値の高値は脳卒中発症の予測因子となることが報告されている。今回,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,NT-proBNP値と脳卒中発症リスクとの関連を追跡期間ごとに検討した。その結果,追跡開始から5年目まででは,NT-proBNP値がもっとも高いカテゴリーで,もっとも低いカテゴリーと比べて,脳卒中発症リスクが有意に高かった。また,NT-proBNP値の1 SD増加と脳卒中発症リスクとの関連では,追跡開始から5年目までの期間では,NT-proBNP値の1 SD増加により脳卒中発症リスクが有意に高くなった。しかし,C統計量による解析の結果,NT-proBNP値を加えた脳卒中発症リスクの予測精度は,追跡期間が長くなると低下した。脳卒中発症リスクの予測のためにNT-proBNP値を用いる場合,定期的に検査することが必要であるかもしれない。

Satoh M, et al. N-Terminal Pro-B-Type Natriuretic Peptide Is Not a Significant Predictor of Stroke Incidence After 5 Years - The Ohasama Study. Circ J. 2018; 82: 2055-2062.pubmed

コホート
岩手県大迫町(現: 花巻市)に居住し,1997年に健診を受診した35歳以上の1831人のうち,追跡調査への参加に同意した1620人。そのうち,脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体(NT-proBNP)値のデータがない270人,心血管疾患または心房細動の既往がある148人,NT-proBNP値が≧1000 pg/mLであった4人を除外した1198人(平均年齢60.5歳,男性33.4%)を,2010年11月30日まで追跡した(追跡期間中央値: 13.0年)。

血漿中のNT-proBNP値の測定には,electrochemiluminescence immunoassay(Roche Diagnostics)を使用した。
ベースライン時のNT-proBNP値(pg/mL)により,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類した。
(注: これまでの研究から,NT-proBNP値<55は基準値,56~124は軽度異常,≧125は異常とされることが多い)
 [C1]≦30.0,[C2]30.1~54.9,[C3]55.0~124.9,[C4]≧125.0
結 果
追跡期間中に脳卒中を発症したのは93人で,うち脳梗塞は62人,脳内出血20人,くも膜下出血11人であった。転居者またはデータが紛失したのは19人であった。

◇ 対象背景
NT-proBNPのカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。

 人数(人): [C1]383,[C2]340,[C3]330,[C4]145
 年齢(歳): 54.9,59.1,63.7,71.0
 BMI(kg/m2): 24.2,23.6,23.6,22.9
 喫煙: 21.4%,12.4%,12.7%,13.8%
 飲酒: 45.4%,31.8%,31.5%,26.2%
 糖尿病: 9.1%,6.2%,8.2%,6.2%
 脂質異常症: 30.3%,26.8%,21.2%,18.6%
 慢性腎臓病(CKD): 6.0%,6.5%,8.8%,22.8%
 収縮期血圧(mmHg): 128.7,129.9,132.4,138.4
 拡張期血圧(mmHg): 72.8,73.2,74.2,75.5
 降圧薬服用: 10.7%,20.3%,33.0%,45.5%
 NT-proBNP(pg/mL,中央値): 18.3,40.2,77.1,173.4

◇ 追跡期間ごとにみたNT-proBNP値と脳卒中発症リスクとの関連
追跡期間全体,追跡開始から5年目まで,5年目以降~終了までの3つの期間における,NT-proBNP値のカテゴリーごとにみた,脳卒中発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。追跡開始から5年目の期間において,NT-proBNP値がもっとも高いカテゴリーでは,もっとも低いカテゴリーと比べて,脳卒中発症リスクが有意に高かった(性別,年齢,BMI,喫煙,飲酒,糖尿病,脂質異常症,CKD,収縮期血圧,降圧薬服用で調整)。

 追跡期間全体: [C1]1.00,[C2]1.92(0.94-3.94),[C3]1.77(0.85-3.66),[C4]1.99(0.86-4.61),P for trend=0.18
  追跡開始から5年目まで: 1.00,2.37(0.57-9.89),2.94(0.72-12.00),4.51(1.03-10.85),P for trend=0.034
  5年目以降から終了まで: 1.00,1.79(0.78-4.12),1.41(0.60-3.30),1.34(0.47-3.87),P for trend=0.79

◇ NT-proBNP値の1 SD増加と脳卒中発症リスクとの関連
NT-proBNP値の1 SD(0.93 pg/mL)増加ごとの脳卒中発症の多変量調整ハザード比は以下のとおり。追跡開始から5年目までの期間では,NT-proBNP値の1 SD増加により脳卒中発症リスクが有意に高くなった。

 追跡開始から5年目まで: 1.60(1.08-2.38),P=0.020
 5年目以降から終了まで: 1.13(0.83-1.55),P=0.43

また,性別,年齢,降圧薬服用,高血圧の有無,CKDの有無別の層別解析の結果,追跡開始から5年目までの期間では,男性,降圧薬服用なし,CKDなしの人では,NT-proBNP値の1 SD増加により脳卒中発症リスクが有意に高くなった。5年目以降から終了までの期間では,降圧薬服用ありで有意にリスクが高かったことを除き,有意な違いはなかった。

 追跡開始から5年目までの層別解析
  性別: [男性]1.86(1.14-3.02),P=0.013,[女性]1.35(0.67-2.72),P=0.40,P for interaction=0.23
  年齢: [<65歳]1.65(0.87-3.10),P=0.12,[≧65歳]1.57(0.93-2.65),P=0.091,P for interaction=0.11
  降圧薬服用: [なし]1.93(1.10-3.40),P=0.023,[あり]1.26(0.71-2.23),P=0.43,P for interaction=0.42
  高血圧: [なし]1.39(0.87-2.22),P=0.17,[あり]1.84(0.99-3.44),P=0.055,P for interaction=0.75
  CKD: [なし]1.83(1.11-3.01),P=0.018,[あり]1.02(0.40-2.58),P=0.97,P for interaction=0.12

◇ 脳卒中発症リスクの予測モデルにおけるNT-proBNP値の影響
従来の脳卒中の危険因子(性別,年齢,BMI,喫煙,飲酒,糖尿病,脂質異常症,CKD,収縮期血圧,降圧薬服用)にNT-proBNP値を加えた脳卒中発症リスクの予測モデルを,追跡期間別にC統計量を用いて評価した。その結果,追跡開始から6年目ではC統計量が最大になったが,7年目から追跡終了までは徐々に低くなる傾向を示した。

◇ 結論
血漿中の脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体(NT-proBNP)値は,心不全や急性冠症候群のバイオマーカーとして使用されている。また,一般住民を対象としたコホート研究のメタ解析によると,5年間の追跡期間内では,NT-proBNP値ならびにBNP値の高値は脳卒中発症の予測因子となることが報告されている。今回,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,NT-proBNP値と脳卒中発症リスクとの関連を追跡期間ごとに検討した。その結果,追跡開始から5年目まででは,NT-proBNP値がもっとも高いカテゴリーで,もっとも低いカテゴリーと比べて,脳卒中発症リスクが有意に高かった。また,NT-proBNP値の1 SD増加と脳卒中発症リスクとの関連では,追跡開始から5年目までの期間では,NT-proBNP値の1 SD増加により脳卒中発症リスクが有意に高くなった。しかし,C統計量による解析の結果,NT-proBNP値を加えた脳卒中発症リスクの予測精度は,追跡期間が長くなると低下した。脳卒中発症リスクの予測のためにNT-proBNP値を用いる場合,定期的に検査することが必要であるかもしれない。


▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.