[インタビュー] 自己血圧測定ではなく「家庭」血圧測定

浅沼裕子さん(花巻市保健福祉部 大迫担当)

 浅沼 裕子さん
 (花巻市保健福祉部 大迫担当)
世界のガイドラインに影響を与えてきた大迫研究。この研究から家庭血圧の標準値が設定された。
そのなかで,保健師は家庭血圧の測り方を指導し,住民の疑問や不安の声にこたえてきた。また,24時間自由行動下血圧測定では,測定開始時と終了時の2回,各家庭を訪問して装着と取り外しを行う。試験開始当初は測定機器の数が少ないため,やりくりをしながら毎日,家々を訪ねた。
取材にうかがったのは一斉健診の日。大迫町の保健師として開始当初から大迫研究に携わってきた浅沼裕子さんは,水色のエプロンで健診中の大迫保健福祉センターをいそがしく飛びまわっていた。

今井潤先生(右)やスタッフと打ち合わせをする浅沼さん(左から2人目)
今井潤先生(右)やスタッフと打ち合わせをする浅沼さん(左から2人目)

1人に1台,ICメモリーつきの血圧計を配布

―浅沼さんは,大迫研究の開始当初から関わっていらっしゃるそうですね。

浅沼: ええ,ずっと一緒に仕事させていただいてます。

 大迫町には大迫地区を含む4つの地区があって,1年に1つの地区が家庭血圧測定事業の対象になります。対象地区の公民館をまわって説明会を開き,住民のみなさんに測定や記録のしかたを説明して,各世帯に家族の人数分の血圧計と記録用紙を配布します。

山と積まれた血圧計
山と積まれた血圧計

―血圧計は,各世帯に1台ではなく,1人に1台配布するのですか。

浅沼: 昔は各世帯に1台ずつで,それで家族みんなの血圧を測っていました。最近はICメモリーつきの血圧計になって,記録や管理の点ではとても便利になったのですが,1人1台ですので,家族の人数分の機械が必要になります。

◆家庭血圧測定を普及させた大迫研究。いまでは一般診療で家庭血圧が用いられることも多くなった。その結果,大迫研究への参加者が少なくなってしまうという逆説的なこともおきている。

―家庭血圧測定事業への参加率はいかがですか。

浅沼: 以前は6~7割でしたが,やはり下がってきてますね。以前は参加していただいていたのですが,10代,20代の若い方は参加しなくなりました。また,高血圧で病院に通っている方は,そちらで家庭血圧記録をとっていますので,こちらには参加しないという人もいます。


おかしい,家で測ると病院よりも血圧が低い

―年配の方も多く参加されているかと思いますが,測定の説明などはスムーズにいきましたか。

浅沼: ええ,血圧記録用紙の書き方も,みなさんとてもしっかりされてます。家庭血圧測定の説明会には,各世帯から少なくとも1人に出席していただくようにお願いしています。測定の仕方など,説明したことを帰宅してからご家族に詳しく伝えていただくことになるので,出席者は若い方が多いですね。

 ただ,以前より町外で働く方が増えたり,生活パターンが多様化したりしてきましたから,公民館に集まっていただく日時の設定も難しくなっています。この調整は,各地区の保健推進委員の方におこなってもらっています。

 家庭血圧測定を始めた当時は,住民の方から心配そうな電話がたくさんかかってきました。家で測ると病院より血圧が低くなるけれども,自分の測り方がおかしいせいではないか,って。家庭血圧が外来血圧よりも低いということが,まだ知られていない時代でしたからね。私たちのほうもよくわからなかったものですから,家まで行って実際に見てみて,「測り方は合っているので,大丈夫」とはげますこともよくありました。

自己血圧ではなく「家庭血圧」という言葉にこだわりたい

―自宅で測定すると,家族の数値にも自然と目がいきそうですね。

浅沼: ずっと前ですが,こんなこともありました。ある家で,ご家族がおばあちゃんの血圧を測ってあげていたところ,なんだか普段より脈が少ないような気がしたので,大丈夫だろうかと心配になり,すぐに病院に連れて行ったのだそうです。それで医師の診察を受けたら,ペースメーカーが必要な状態だったんですね。

 家族ぐるみの血圧測定が毎日の習慣になっていると,このような日常のちょっとした変化をとらえやすくなります。測定値が正常かどうかということだけでなく,ご家族の「どうも少ない」「なにか普段と違う」といった直感もはたらく。家庭血圧のよさは,このあたりにもあるように思います。

 だから私は,「自己血圧測定」ではなく,「家庭血圧測定」という言葉にこだわっているんです。

畳の部屋でも問診が行われる
畳の部屋でも問診が行われる

住民のなかに根づく大迫研究の見えない成果

―大迫研究は,住民の健康意識の向上をめざして始まったといいます。約20年がたった今,日々の保健活動の中でそれを実感されることはありますか。

浅沼: ずっとここにいた私はなかなか気づかなかったことですが,外から大迫町に来た若い保健師が,大迫の町民の方は血圧の測り方が上手ですね,といっていたことがありました。カフの巻き方や装着する腕の位置といった,本当にちょっとしたことなんですが,やっぱりきちんと巻かなければ正確な値は測定できません。大迫町の人たちは測定の基本がしっかりできています。ほかの地域ではなかなかないことです。また,ご自分の血圧値がどれくらいだという数字の部分についても,以前にくらべてとても意識が高くなりました。これまで大迫研究がめざしてきたものは,そうして住民の方々のなかにしっかり根づいていると感じます。

大迫病院に隣接する大迫保健福祉センター
大迫病院に隣接する大迫保健福祉センター



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