[2009年文献] 果物,野菜,豆類の摂取頻度は心血管疾患死亡リスクの低下と有意に関連

欧米とは疾病構造や食習慣が異なる日本人一般住民を対象として,植物性の食物(果物,野菜,豆類)の摂取頻度と心血管疾患死亡リスクとの関連について検討した。平均12.7年間の追跡の結果,果物の摂取頻度は全死亡,心血管疾患死亡,脳卒中死亡ならびに出血性脳卒中死亡リスクの低下と,野菜の摂取頻度は全死亡,心血管疾患死亡ならびに冠動脈疾患死亡リスクの低下と,豆類の摂取頻度は全死亡ならびに心血管疾患死亡リスクの低下と,それぞれ有意に関連することが示された。このように,日本人において,植物性食物の摂取は心血管疾患予防のためによい影響をもたらす可能性がある。

Nagura J, et al.; the JACC Study group. Fruit, vegetable and bean intake and mortality from cardiovascular disease among Japanese men and women: the JACC Study. Br J Nutr. 2009; 1-8.pubmed

コホート
国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加した40~79歳の110792人のうち,脳卒中,冠動脈疾患または癌の既往のある男性2576人と女性3288人,食事調査のデータに不備のある男性18683人と女性26760人を除いた,男性25206人と女性34279人を平均12.7年間追跡。

果物,野菜および豆類の摂取については,食事摂取頻度調査票(FFQ:food frequency questionnaire)により評価。摂取頻度(ほとんど食べない/月に1~2日/週に1~2日/週に3~4日/ほぼ毎日)をたずね,果物,野菜および豆類のそれぞれについて,上記の摂取頻度(週あたりに換算して0回,0.375回,1.5回,3.5回,7回/週)をもとに全体を四分位に分けて解析を行った。
結 果
◇ 対象背景
果物,野菜,豆類の摂取頻度とそれぞれ有意な正の関連を示していたのは,年齢,女性の割合,1日30分以上の歩行習慣の割合,週1時間以上の運動習慣の割合,睡眠時間(果物を除く),大学卒業以上の学歴の割合,総摂取エネルギー量,飽和脂肪酸摂取量,n-3系脂肪酸摂取量,ナトリウム摂取量。
果物,野菜,豆類の摂取頻度とそれぞれ有意な負の関連を示していたのは,高血圧の割合,エタノール摂取量,高度な自覚的ストレスの割合(果物を除く),喫煙率(豆類を除く)。
BMIと果物,野菜,豆類の摂取頻度は関連していなかった。

◇ 果物,野菜,豆類の摂取頻度と心血管疾患死亡リスク
追跡期間中の死亡の状況は以下のとおり。
  全死亡: 男性4514人,女性3029人
   心血管疾患死亡: 1207人,1036人
    脳卒中死亡: 559人,494人
     虚血性脳卒中死亡: 214人,148人
     脳出血死亡: 128人,104人
     くも膜下出血死亡: 52人,109人
    冠動脈疾患死亡: 258人,194人

果物,野菜,豆類の摂取頻度と心血管疾患死亡リスクとの関連に性差はみられなかった(P for interaction>0.05)ことから,男女をあわせて解析を行った。

(1)果物の摂取頻度と心血管疾患死亡リスク
全死亡,心血管疾患死亡,脳卒中死亡,出血性脳卒中死亡のそれぞれについて,果物の摂取頻度が高いほど,年齢・性別で調整したハザード比が低くなる有意な傾向がみとめられた。この結果は,その他の心血管疾患危険因子*による調整を行っても同様であった(性別,年齢,BMI,喫煙,アルコール摂取,歩行時間,睡眠時間,教育年数,自覚的ストレス,コレステロール摂取量,飽和脂肪酸摂取量,n-3系脂肪酸摂取量,ナトリウム摂取量,高血圧既往,糖尿病既往により調整)。
果物の摂取頻度がもっとも高い四分位の,もっとも低い四分位に比した多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
  全死亡: 0.86(0.80-0.92),P for trend<0.001
   心血管疾患死亡: 0.75(0.66-0.85),P for trend<0.001
    脳卒中死亡: 0.67(0.55-0.81),P for trend<0.001
     出血性脳卒中死亡: 0.63(0.46-0.87),P for trend=0.004

(2)野菜の摂取頻度と心血管疾患死亡リスク
全死亡,心血管疾患死亡,冠動脈疾患死亡のそれぞれについて,野菜の摂取頻度がもっとも高い四分位での年齢・性別調整ハザード比の有意な低下がみとめられたが,その他の心血管疾患危険因子による調整を行うと,関連は弱められた。
野菜の摂取頻度がもっとも高い四分位の,もっとも低い四分位に比した多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおり。
   心血管疾患死亡: 0.88(0.78-0.99),P for trend=0.069
    冠動脈疾患死亡: 0.77(0.58-1.00),P for trend=0.079

(3)豆類の摂取頻度と心血管疾患死亡リスク
全死亡,心血管疾患死亡,冠動脈疾患死亡,その他の心血管疾患死亡のそれぞれについて,豆類の摂取頻度が高いほど年齢・性別調整ハザード比が低くなる有意な傾向がみとめられた。これらの結果は,その他の心血管疾患危険因子による調整を行うと弱められたものの,全死亡,心血管疾患死亡,およびその他の心血管疾患死亡については,摂取頻度がもっとも高い四分位における有意なリスク低下は消失しなかった。
豆類の摂取頻度がもっとも高い四分位の,もっとも低い四分位に比した多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおり。 
  全死亡: 0.90(0.84-0.96),P for trend=0.006
   心血管疾患死亡: 0.84(0.74-0.95),P for trend=0.010
    その他の心血管疾患死亡: 0.79(0.64-0.98),P for trend=0.097


◇ 結論
欧米とは疾病構造や食習慣が異なる日本人一般住民を対象として,植物性の食物(果物,野菜,豆類)の摂取頻度と心血管疾患死亡リスクとの関連について検討した。平均12.7年間の追跡の結果,果物の摂取頻度は全死亡,心血管疾患死亡,脳卒中死亡ならびに出血性脳卒中死亡リスクの低下と,野菜の摂取頻度は全死亡,心血管疾患死亡ならびに冠動脈疾患死亡リスクの低下と,豆類の摂取頻度は全死亡,心血管疾患死亡ならびに冠動脈疾患死亡リスクの低下と,それぞれ有意に関連することが示された。このように,日本人において,植物性食物の摂取は心血管疾患予防のためによい影響をもたらす可能性がある。


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