[2010年文献] 昼寝の習慣をもつ人では全死亡リスクおよび心血管疾患死亡リスクが高い

これまでに,日本人では睡眠時間と全死亡リスクがU字型に関連することが示されているが(抄録へ),昼寝(nap)と死亡リスクとの関連については,昼寝の文化・慣習をもたない国ではほとんど検討されていない。そこで,40~79歳の日本人一般住民を対象とした大規模コホート研究において,昼寝の習慣と死因別死亡リスクとの関連を検討した。14.3年間(中央値)の追跡の結果,昼寝の習慣は全死亡,心血管疾患死亡,非心血管疾患・非癌死亡,外的要因による死亡のリスクとそれぞれ有意に関連しており,高齢者のみならず若年者でも有意な関連がみとめられた点が過去の報告とは異なっていた。昼寝の習慣と全心血管疾患死亡リスクとの関連は,肥満者で弱く,20歳時にくらべて体重が少ない人では強かったことから,生物学的なメカニズムよりもむしろ,体重減少をきたすような併存疾患がこの関連に影響を及ぼしている可能性がある。

Tanabe N, et al.; for the JACC Study Group. Daytime napping and mortality, with a special reference to cardiovascular disease: the JACC study. Int J Epidemiol. 2010; 39: 233-243. pubmed

コホート
国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加した40~79歳の110792人のうち,自己記入式質問票で前年の昼寝の習慣があるかどうかについて回答した90513人。さらに夜間・シフト勤務の人,ならびに脳卒中・心疾患・癌の既往をもつ人を除外した67129人(男性27755人,女性39374人)を解析の対象とし,2003年末まで14.3年間(中央値)追跡した(87万9244人・年)。
結 果
◇ 対象背景
昼寝の習慣があると回答した人(napper)は,男性10128人(36.5%),女性11528人(29.3%)。
昼寝の習慣がある人で,ない人よりも高い値を示していたのは,年齢,全睡眠時間,収縮期血圧,抑うつ症状の割合,20歳時にくらべて体重が減少した人の割合,高血圧や糖尿病などの既往の割合,治療中の疾患既往の割合,歩行時間(男性のみ),BMI(女性のみ),および拡張期血圧(女性のみ)で,低い値を示していたのは飲酒率,心理的ストレスをもつ人の割合,有職者の割合,教育年数が長い人の割合,および喫煙率(男性のみ)。

◇ 昼寝の習慣と死因別死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは9643人(男性5661人,女性3982人)で,内訳は以下のとおり。
  全心血管疾患(CVD)死亡: 2852人
   脳梗塞死亡: 479人
   脳内出血死亡: 294人
   くも膜下出血死亡: 194人
   虚血性心疾患死亡: 569人
   心不全死亡: 458人
   その他のCVD死亡: 858人
  癌死亡: 3643人
  非CVD・非癌(内因性)死亡: 2392人
  外的要因による死亡: 738人

昼寝の習慣のある人における各死因別死亡の多変量調整ハザード比(vs. ない人)は以下のとおりで,全死亡,CVD死亡,脳梗塞死亡,脳内出血死亡,心不全死亡,非CVD・非癌死亡,外的要因による死亡のそれぞれについて,有意なリスク増加がみとめられた。
性,年齢,全睡眠時間,高血圧治療,糖尿病既往,治療中の疾患既往,喫煙,BMI,20歳時にくらべた体重減少,血圧,心理的ストレス,抑うつ症状,就業状況,教育年数および歩行時間で調整)

 全死亡: 1.19(95%信頼区間1.14-1.24),P<0.001
  全CVD死亡: 1.31(1.22-1.42),P<0.001
   脳梗塞死亡: 1.38(1.14-1.66),P<0.001
   脳内出血死亡: 1.34(1.06-1.70),P=0.016
   くも膜下出血死亡: 1.29(0.96-1.74),P=0.096
   虚血性心疾患死亡: 1.10(0.93-1.31),P=0.269
   心不全死亡: 1.42(1.18-1.73),P<0.001
  癌死亡: 1.03(0.96-1.10),P=0.400
  非CVD・非癌死亡: 1.26(1.16-1.37),P<0.001
  外的要因による死亡: 1.28(1.10-1.50),P=0.001

以上の結果を男女別にみると,昼寝の習慣のある男性では全死亡,全CVD死亡,および非CVD・非癌死亡に関する有意なリスク増加,昼寝の習慣のある女性では全死亡,全CVD死亡,脳梗塞死亡,心不全死亡,非CVD・非癌死亡および外的要因による死亡に関する有意なリスク増加がそれぞれみられるという結果であった。
ただし,いずれの死因別死亡についても,性による有意な相互作用はみられなかった。

昼寝の習慣と全死亡,非CVD・非癌死亡,および外的要因による死亡のリスクとの関連に対する年齢(40~64歳/65~79歳)の相互作用はみとめられなかった。

◇ 昼寝の習慣と全CVD死亡リスクに関する層別解析
昼寝の習慣と全CVD死亡の多変量調整ハザード比(vs. ない人)について層別解析を行った結果,以下のとおり,BMI,および20歳時にくらべた体重の変化による有意な相互作用がみられたが,抑うつ症状,歩行時間,血圧,高血圧治療,治療中の疾患既往,就業状況および教育年数による相互作用はみとめられなかった。

・BMI(P for interaction=0.036)
 18.4 kg/m2以下: 1.49(1.16-1.90)
 18.5~21.9 kg/m2: 1.29(1.13-1.48)
 22.0~24.9 kg/m2: 1.44(1.25-1.67)
 25.0 kg/m2以上: 1.04(0.87-1.25)

・20歳時にくらべた体重変化(P for interaction=0.034)
 不変または増加: 1.19(1.06-1.34)
 減少: 1.40(1.22-1.61)


◇ 結論
これまでに,日本人では睡眠時間と全死亡リスクがU字型に関連することが示されているが(抄録へ),昼寝(nap)と死亡リスクとの関連については,昼寝の文化・慣習をもたない国ではほとんど検討されていない。そこで,40~79歳の日本人一般住民を対象とした大規模コホート研究において,昼寝の習慣と死因別死亡リスクとの関連を検討した。14.3年間(中央値)の追跡の結果,昼寝の習慣は全死亡,心血管疾患死亡,非心血管疾患・非癌死亡,外的要因による死亡のリスクとそれぞれ有意に関連しており,高齢者のみならず若年者でも有意な関連がみとめられた点が過去の報告とは異なっていた。昼寝の習慣と全心血管疾患死亡リスクとの関連は,肥満者で弱く,20歳時にくらべて体重が少ない人では強かったことから,生物学的なメカニズムよりもむしろ,体重減少をきたすような併存疾患がこの関連に影響を及ぼしている可能性がある。


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