[2011年文献] 米飯を多く食べる男性では,心血管疾患死亡リスクが低い

米飯は,主食として,日本人の炭水化物摂取量の43%,ならびに総摂取エネルギーの29%を占める。炭水化物の摂取は心血管疾患(CVD)リスクと関連するとの報告があるが,この関連は肥満の有無によって異なることも指摘されている。そこで,欧米にくらべて肥満の少ない日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究のデータを用いて,米飯の摂取量とCVD死亡リスクとの関連について検討した。14.1年間(中央値)の追跡の結果,男性では米飯を多く食べる人ほどCVD死亡,冠動脈疾患死亡および心不全死亡リスクが低い傾向がみられたが,女性では関連はみられなかった。BMIによる層別解析では,とくにBMIが23.5 kg/m2超の男性で,米飯の摂取量とCVD死亡リスクとの負の関連が強いことが示された。

Eshak ES, et al.; JACC Study Group. Rice intake is associated with reduced risk of mortality from cardiovascular disease in Japanese men but not women. J Nutr. 2011; 141: 595-602.pubmed

コホート
国内の45地区の居住者で,1988~1990年のベースライン調査に参加し,生活習慣や既往歴に関する自己記入式質問票に回答した40~79歳の110792人(男性46465人,女性64327人)のうち,脳卒中,癌または冠動脈疾患既往のある16109人,食物摂取頻度調査票(FFQ)への回答に不備がある10742人,および総摂取エネルギーが極端に高い(1日3500 kcal超または500 kcal未満)189人を除いた83752人(男性35064人,女性48688人)を2003年末まで追跡。
追跡期間の中央値は14.1年。

米飯の摂取については,標準的な摂取量である1膳(140 g)の摂取頻度(まれに/月1~2回/週1~2回/週3~4回/ほぼ毎日)をたずね,算出した1日あたりの摂取量の五分位によるカテゴリーに対象者を分類した。
・男性
  Q1: 0~396 g,Q2: 397~446 g,Q3: 447~551 g,Q4: 552~655 g,Q5: 656~1680 g
・女性
  Q1: 0~309 g,Q2: 310~397 g,Q3: 398~420 g,Q4: 421~493 g,Q5: 494~1680 g
結 果
◇ 対象背景
男性で,米飯の摂取量が多いほど低値を示していたのは年齢,教育年数,喫煙率,定期的な身体活動の割合,糖尿病既往の割合および高血圧の割合。女性では,米飯の摂取量が多いほど高値を示していたのはBMIおよび喫煙率の割合で,低値を示していたのは年齢,教育年数および糖尿病既往。また,男女とも,米飯の摂取量が多いほど,アルコール,魚,肉,野菜,果物,大豆の摂取量がいずれも低く,Keysスコアも低かった。

追跡期間中に心血管疾患(CVD)で死亡したのは3514人(男性1927人,女性1587人)。
うち脳卒中死亡が1640人(874人,766人),冠動脈疾患(CHD)死亡が707人(429人,278人),心不全死亡が560人(295人,265人)であった。

◇ 米飯の摂取とCVD死亡リスク
米飯の摂取量のカテゴリーごとのCVD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで(それぞれQ1~Q5の値),男性において有意な負の関連がみとめられた。
高血圧既往,糖尿病既往,BMI,アルコール摂取量,喫煙状況,身体活動時間,歩行時間,教育年数,自覚的な心理ストレス,睡眠時間,魚・肉・野菜・果物・乳製品・大豆の摂取量および総摂取エネルギーで調整)

・男性: 1.00,0.90(0.79-1.03),0.87(0.74-1.02),0.79(0.67-0.93),0.82(0.70-0.97)[P for trend=0.006]
・女性: 1.00,0.94(0.78-1.14),0.90(0.77-1.05),1.20(0.94-1.51),1.07(0.88-1.34)[P for trend=0.66]

内訳をみると,男性では,CHD死亡および心不全死亡リスクについても同様に米飯摂取量との負の関連がみられたが(それぞれP for trend=0.02,P for trend=0.05),女性では,脳卒中,CHD,心不全死亡のいずれについても有意な関連はなかった。

米飯の摂取量を連続変数として扱った解析を行うと,男性では,摂取量+1 SD(174.4 g)ごとの多変量調整ハザード比は,CVD死亡0.92(95%信頼区間0.88-0.97),脳卒中死亡0.97(0.90-1.04),CHD死亡0.90(0.81-0.99),心不全死亡0.86(0.76-0.97)であった。女性ではそれぞれ,1.02(0.96-1.09),0.97(0.89-1.06),0.99(0.88-1.17),1.08(0.94-1.24)。

以上の結果は,ベースラインから5年以内の死亡を除外した解析でもほぼ同様にみとめられた。

◇ BMIによる層別解析
BMIの三分位(男性: ≦21.4,21.5~23.5,>23.5 kg/m2,女性: ≦21.6,21.7~23.8,>23.8 kg/m2)による層別解析を行うと,男性ではとくにBMIがもっとも大きいカテゴリーにおいて,米飯の摂取量とCVD死亡,CHD死亡および心不全死亡との負の関連がみとめられた(それぞれP for trend=0.005,P for trend=0.05,P for trend=0.03)。
女性では,どのBMIのカテゴリーでも有意な関連はみられなかった。


◇ 結論
米飯は,主食として,日本人の炭水化物摂取量の43%,ならびに総摂取エネルギーの29%を占める。炭水化物の摂取は心血管疾患(CVD)リスクと関連するとの報告があるが,この関連は肥満の有無によって異なることも指摘されている。そこで,欧米にくらべて肥満の少ない日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究のデータを用いて,米飯の摂取量とCVD死亡リスクとの関連について検討した。14.1年間(中央値)の追跡の結果,男性では米飯を多く食べる人ほどCVD死亡,冠動脈疾患死亡および心不全死亡リスクが低い傾向がみられたが,女性では関連はみられなかった。BMIによる層別解析では,とくにBMIが23.5 kg/m2超の男性で,米飯の摂取量とCVD死亡リスクとの負の関連が強いことが示された。


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