[2018年文献] 心筋梗塞と脳卒中の既往の有無にかかわらず,高齢者の日常的な歩行は肺炎死亡リスクの低下と関連

歩行や身体的な活動は,肺炎による死亡リスクの低下と関連があることが報告されている。しかし,心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患既往が,肺炎による死亡リスクに対する歩行の有効性を弱めるとの報告もある。本研究では,高齢の日本人一般住民(65~79歳)における歩行と肺炎の関連について,心筋梗塞と脳卒中の既往の有無別に検討した。その結果,心筋梗塞と脳卒中の既往がない人と心筋梗塞の既往がある人では,1時間以上の歩行が肺炎死亡リスクの低下と関連し,脳卒中の既往がある人では,0.6~0.9時間の歩行が肺炎死亡リスクの低下と関連した。心筋梗塞と脳卒中の既往の有無にかかわらず,高齢者の日常的な歩行は,肺炎死亡リスクの低下と関連する可能性が示唆された。

Ukawa S, et al. Associations of Daily Walking Time With Pneumonia Mortality Among Elderly Individuals With or Without a Medical History of Myocardial Infarction or Stroke: Findings From the Japan Collaborative Cohort Study. J Epidemiol. 2018; pubmed

コホート
国内の45地区に居住しており,1988~1990年のベースライン調査に参加し,自己記入式質問票に回答した65~79歳の29956人(男性12196人,女性17760人)のうち,歩行に関する情報が不足している人を除いた22280人(男性9067人,女性13213人)を,11.9年間(中央値)追跡(30万6578人・年)。

歩行時間については,「室内または屋外で,1日に平均どのくらいの時間歩いていますか」という質問への回答に基づいて,対象者を以下のカテゴリーに分類した。

 0.5時間未満,0.5時間,0.6~0.9時間,1時間以上
結 果
追跡期間中に肺炎で死亡した人は1203人(男性731人,女性472人)であった。

◇ 対象背景
1日1時間以上歩く人の割合は,心筋梗塞・脳卒中のどちらの既往もない人では50.4%(平均年齢: 70.2±4.0歳),心筋梗塞の既往のある人では41.8%(70.8±4.3歳),脳卒中の既往のある人が33.9%(71.0±3.5歳)であった。

心筋梗塞と脳卒中のどちらの既往もない人のうち,1日に1時間以上歩く人では,歩行時間が短い人に比して年齢が若く,女性と飲酒の習慣がある人が多かった。また,BMI(kg/m2)は18.5~24.9の人がもっとも多く,睡眠時間が6.5~8.4時間の人の割合は59.7%であった。また,心筋梗塞と脳卒中の既往の有無を問わず,1時間以上歩く人では,1日に0.5時間歩く人に比して,大学を卒業していない割合が多く,抑うつ傾向・糖尿病既往のある割合が少なかった。

◇ 歩行時間と肺炎死亡リスク
・心筋梗塞と脳卒中のどちらの既往もない人
歩行時間のカテゴリーごとにみた,肺炎による死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。0.5時間の人に比して,0.5時間未満の人では,肺炎死亡リスクが有意に高く,1時間以上の人では有意に低かった。
(傾向スコアの逆数で重み付けを行い,交絡因子[年齢・性別・喫煙・飲酒量・BMI・教育年数・結婚歴・抑うつ傾向・睡眠時間・癌既往・糖尿病既往・腎臓病既往・喘息既往]を調整した競合リスクモデル,*P<0.05 vs. 歩行時間が0.5時間の人)。

 [0.5時間未満]1.33(1.22-1.43)*,[0.5時間]1,[0.6~0.9時間]0.97(0.89-1.05),[1時間以上]0.90(0.82-0.98)*,P for linear trend<0.001

・心筋梗塞の既往がある人
0.5時間の人に比して,歩行時間が1時間以上の人では,肺炎死亡リスクが有意に低かった。

 0.93(0.70-1.23),1,0.90(0.68-1.21),0.66(0.48-0.90)*,P for linear trend<0.02

・脳卒中の既往がある人
0.5時間の人に比して,歩行時間が0.5時間未満の人では,肺炎死亡リスクが有意に高く,0.6~0.9時間の人では有意に低かった。

 1.66(1.19-3.33)*,1,0.65(0.43-0.98)*,1.15(0.81-1.63),P for linear trend<0.001

◇ 結論
歩行や身体的な活動は,肺炎による死亡リスクの低下と関連があることが報告されている。しかし,心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患既往が,肺炎による死亡リスクに対する歩行の有効性を弱めるとの報告もある。本研究では,高齢の日本人一般住民(65~79歳)における歩行と肺炎の関連について,心筋梗塞と脳卒中の既往の有無別に検討した。その結果,心筋梗塞と脳卒中の既往がない人と心筋梗塞の既往がある人では,1時間以上の歩行が肺炎死亡リスクの低下と関連し,脳卒中の既往がある人では,0.6~0.9時間の歩行が肺炎死亡リスクの低下と関連した。心筋梗塞と脳卒中の既往の有無にかかわらず,高齢者の日常的な歩行は,肺炎死亡リスクの低下と関連する可能性が示唆された。


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