[2019年文献] 湿疹の頻度が高い人では冠動脈疾患死亡リスクが有意に増加する

これまでの報告から,慢性炎症は心血管疾患(CVD)の危険因子となることが知られている。しかし,慢性炎症の1つである湿疹と,CVDリスクとの関連については現在のところさまざまな議論がある。また,報告の多くは欧米のものである。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,湿疹の頻度と,おもなCVD死亡リスクとの関連を検討した。その結果,湿疹が頻繁にある人では,めったにない人と比べて,冠動脈疾患(CHD)死亡リスクが有意に高かった。また,男女別,年齢別でみると,男性または40~59歳の人で湿疹が頻繁にある人では,めったにない人またはときどきある人と比べて,CHD死亡リスクが有意に高かった。この結果から,日本人一般住民において,湿疹の頻度はCHD死亡リスクと正に関連することが示唆された。将来的には,ステロイド系薬剤の使用も考慮した解析が必要である。

Nishida Y, et al.; Self-Reported Eczema in Relation with Mortality from Cardiovascular Disease in Japanese: the Japan Collaborative Cohort Study. J Atheroscler Thromb. 2019pubmed

コホート
国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加し,自己記入式質問票に回答した40~79歳の110585人のうち,皮膚の状態に関する質問に回答した90035人。そのうち,ベースライン時に冠動脈疾患(CHD),脳卒中,癌の既往のある人を除いた85099人(男性35489人,女性49610人)を対象として638万9818人・年追跡。
結 果
追跡期間中に心血管疾患(CVD)で死亡した人は5628人。死亡の内訳は,CHD1174人,心不全979人,不整脈366人,脳卒中2454人(虚血性脳卒中1357人,出血性脳卒中1013人),大動脈瘤または大動脈解離201人であった。

ベースライン時の湿疹の頻度については,以下の質問への回答により,3つのカテゴリーに分類した。
[G1]: めったにない,[G2]: ときどきある,[G3]: 頻繁にある

◇ 対象背景
3つのカテゴリーの対象背景は以下のとおり。

 人数(人): [G1]64490人,[G2]15240人,[G3]5369人
 年齢(歳): 57.0,56.5,57.1
 男性: 41.9%,41.0%,41.4%
 BMI(kg/m2): 22.8,22.8,23.0
 高血圧既往: 21.4%,21.3%,23.6%
 糖尿病既往: 4.7%,5.8%,7.3%
 飲酒: 40.2%,41.3%,41.4%
 喫煙: 26.6%,26.2%,26.9%
 強度の自覚的ストレス: 19.6%,25.3%,31.4%
 ≧5時間/週の運動: 5.6%,6.0%,5.2%
 >18歳まで就学経験のある人: 12.9%,15.6%,15.3%
 睡眠時間(時間/日): 7.3,7.2,7.2

◇ 湿疹の頻度とCVD死亡リスクとの関連
湿疹の頻度による3つのカテゴリーごとにみた,CVD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。湿疹がめったにない人と比べて,ときどきある人では,CHD死亡リスクが有意に低く,頻繁にある人では有意に高かった。そのほかのCVD死亡については,関連はみとめられなかった(年齢,性別,BMI,高血圧既往,糖尿病既往,飲酒量,喫煙歴,自覚的ストレスの強度,歩行時間,運動の習慣,睡眠時間,教育年数)。

 CVD死亡: [G1]1,[G2]0.95(0.88-1.02),[G3]1.05(0.95-1.18)
  CHD死亡: 1,0.82(0.69-0.97),1.26(1.01-1.56)
  心不全: 1,1.07(0.90-1.27),1.12(0.86-1.45)
  不整脈: 1,1.01(0.76-1.34),1.13(0.73-1.72)
  脳卒中: 1,0.97(0.87-1.08),0.98(0.83-1.16)
   虚血性脳卒中: 1,0.97(0.84-1.13),0.95(0.76-1.20)
   出血性脳卒中: 1,0.95(0.80-1.13),1.03(0.80-1.34)
  大動脈瘤または剥離: 1,0.76(0.50-1.17),0.97(0.54-1.75)

湿疹の頻度の2つのカテゴリー([G’1]めったにない+ときどきある,[G’2]頻繁にある)ごとにみた,CHD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。湿疹が頻繁にある人では,めったにない+ときどきある人と比べて,CHD死亡リスクが有意に高かった([G’1]1,[G’2]1.30[1.05-1.61])。

◇ 男女別,年齢層別でみた,湿疹の頻度とCHD死亡リスクとの関連
湿疹の頻度の2つのカテゴリーごとにみた,男女別のCHD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。男性で,湿疹が頻繁にある人では,めったにない+ときどきある人と比べて,CHD死亡リスクが有意に高かった。

 男性: [G'1]1,[G'2]1.32(1.00-1.74)
 女性: 1,1.31(0.93-1.85)

また,40~59歳の人で,湿疹が頻繁にある人では,めったにない+ときどきある人と比べて,CHD死亡リスクが有意に高かった。

 40~59歳: [G'1]1,[G'2]1.69(1.13-2.52)
 60~79歳: 1,1.24(0.96-1.60)

◇ 結論
これまでの報告から,慢性炎症は心血管疾患(CVD)の危険因子となることが知られている。しかし,慢性炎症の1つである湿疹と,CVDリスクとの関連については現在のところさまざまな議論がある。また,報告の多くは欧米のものである。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,湿疹の頻度と,おもなCVD死亡リスクとの関連を検討した。その結果,湿疹が頻繁にある人では,めったにない人と比べて,冠動脈疾患(CHD)死亡リスクが有意に高かった。また,男女別,年齢別でみると,男性または40~59歳の人で湿疹が頻繁にある人では,めったにない人またはときどきある人と比べて,CHD死亡リスクが有意に高かった。この結果から,日本人一般住民において,湿疹の頻度はCHD死亡リスクと正に関連することが示唆された。将来的には,ステロイド系薬剤の使用も考慮した解析が必要である。


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