[2018年文献] 思春期に運動部に所属し成人期の運動習慣がある男性は,冠動脈疾患死亡リスクが低い

これまでの研究から,思春期に行う運動は,成人期の心血管リスクプロファイルによい影響を及ぼすと考えられている。また,成人期における中程度の運動は,心血管疾患(CVD)発症リスクならびに死亡リスクの低下との関連が知られている。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,思春期ならびに成人期での運動習慣と,CVD死亡リスクとの関連を調べた。その結果,「成人期の運動習慣があり,思春期に運動部に所属していた」男性は,「成人期の運動習慣があり,運動部に所属していなかった」男性と比べて,冠動脈疾患(CHD)死亡リスクが有意に低かった。男性では,思春期の運動習慣が心血管に長期的な影響を及ぼしている可能性が示唆された。

Gero K, et al. Cardiovascular disease mortality in relation to physical activity during adolescence and adulthood in Japan: Does school-based sport club participation matter? Prev Med. 2018; 113: 102-108.pubmed

コホート
国内の45地区に居住し,1988~1990年のベースライン調査に参加し,自己記入式質問票に回答した40~79歳の110585人のうち,ベースライン時の運動習慣と,思春期(中学,高校時代)の部活動についての回答がなかった36019人,ベースライン時に心血管疾患(CVD)ならびに癌の既往のある3997人を除外した70569人(男性29526人,女性41043人)を16.4年(中央値)追跡した。

ベースライン時の運動習慣については,「1週間に平均どのくらいの時間,運動をしていますか?」という質問への回答により,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類した。

 [C1]<1時間,[C2]1~2時間,[C3]3~4時間,[C4]≧5時間

思春期の部活動については,「中学,高校時代に運動部に所属していた期間はありますか?」という質問により調査(「はい」または「いいえ」)。
結 果
追跡期間中のCVD死亡は4230人。そのうち冠動脈疾患(CHD)死亡870人,脳卒中死亡1859人。

◇ 対象背景
ベースライン時の運動習慣による4カテゴリーの対象背景を,思春期における運動部への所属の有無別に比較した結果は以下のとおり。

・男性(運動部に所属していなかった人[C1] vs. 所属していた人[C’1])
 人数(人): [C1]11680,[C2]1827,[C3]808,[C4]844 vs. [C’1]8772,[C’2]3177,[C’3]1321,[C’4]1097
 年齢(歳): 57.8,58.7,61.8,64.1 vs. 53.1,52.7,56.0,58.0
 BMI(kg/m2): 22.5,22.6,22.9,22.9 vs. 22.9,22.9,23.0,22.9
 飲酒量(g/日): 34.8,32.3,33.3,38.9 vs. 34.8,32.6,32.4,33.8
 喫煙率: 50%,44%,46%,47% vs. 55%,51%,50%,50%
 大学卒業: 10%,15%,13%,10% vs. 19%,26%,25%,23%
 1時間/日以上の歩行: 45%,42%,40%,76% vs. 42%,41%,42%,68%

・女性
 人数(人): [C1]21196,[C2]2854,[C3]1135,[C4]948 vs. [C’1]10406,[C’2]2705,[C’3]1004,[C’4]795
 年齢(歳): 57.7,58.3,61.7,63.1 vs. 52.8,53.3,55.1,58.8
 BMI(kg/m2): 22.9,22.8,22.9,22.9 vs. 23.0,23.0,22.9,22.8
 飲酒量(g/日): 10.4,9.7,9.5,12.4 vs. 10.7,9.5,10.1,10.0
 喫煙率: 4%,3%,4%,3% vs. 5%,4%,5%,5%
 大学卒業: 7%,11%,11%,7% vs. 12%,14%,15%,16%
 1時間/日以上の歩行: 44%,46%,50%,73% vs. 45%,46%,52%,77%

◇ ベースライン時の運動習慣と心血管疾患死亡リスクとの関連
ベースライン時の運動時間のカテゴリーごとにみた,男女別のCVD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。男性で週5時間以上運動する人では,CVD死亡リスクが有意に低く,女性で週5時間以上運動する人では,CHD死亡リスクが有意に低かった(BMI,糖尿病既往,高血圧既往,喫煙,飲酒,睡眠時間,教育年数,就業状況,自覚的ストレス,魚の摂取量,歩行時間で調整)。

・男性(ベースライン時から2003年まで)
 CVD死亡: [C1]1.10(0.95-1.28),[C2]1(対照),[C3]0.98(0.79-1.22),[C4]0.77(0.61-0.98)
  CHD死亡: 0.94(0.69-1.28),1.0,0.93(0.59-1.46),0.65(0.39-1.07)
  脳卒中死亡: 1.25(0.99-1.58),1.0,1.24(0.89-1.71),0.92(0.65-1.30)

・女性(ベースライン時から2003年まで)
 CVD死亡: [C1]1.03(0.86-1.23),[C2]1.0,[C3]0.88(0.66-1.18),[C4]0.82(0.61-1.10)
  CHD死亡: 0.94(0.62-1.41),1.0,0.86(0.45-1.64),0.40(0.17-0.91)
  脳卒中死亡: 0.92(0.72-1.18),1.0,0.79(0.52-1.19),0.65(0.42-1.01)

◇ 思春期の運動部への所属の有無ならびにベースライン時の運動習慣とCVD死亡との関連
思春期の運動部への所属の有無ならびにベースライン時の運動習慣(週5時間以上 vs. 未満)で分けたグループごとにみた,CVD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。男性で「ベースライン時の運動時間が≧5時間/週で,運動部に所属していなかった人」と比べて,「<5時間/週で,運動部に所属していなかった人」では,CVD死亡,脳卒中死亡リスクが有意に高く,「<5時間/週で,運動部に所属していた人」はCVD死亡リスクが有意に高かった。また,「≧5時間/週で,運動部に所属していた人」はCHD死亡リスクが有意に低かった。

・男性(ベースライン時から2003年まで)
 CVD死亡: [<5/非所属]1.29(1.00-1.68),[<5/所属]1.33(1.02-1.74),[≧5/非所属]1.0(対照),[≧5/所属]0.89(0.61-1.30)
  CHD死亡: 0.92(0.56-1.52),0.92(0.55-1.54),1.0,0.24(0.08-0.71)
  脳卒中死亡: 1.49(1.00-2.21),1.41(0.93-2.13),1.0,1.26(0.73-2.17)

女性では,「ベースライン時の運動時間が≧5時間/週で,運動部に所属していなかった人」と比べて,「<5時間/週で,運動部に所属していなかった人」と「<5時間/週で,運動部に所属していた人」では,CHD死亡リスクが有意に高かった。

・女性(ベースライン時から2003年まで)
 CVD死亡: 1.26(0.93-1.71),1.18(0.85-1.63),1.0,1.01(0.61-1.66)
  CHD死亡: 3.46(1.10-10.9),3.62(1.12-11.8),1.0,2.29(0.51-10.3)
  脳卒中死亡: 1.35(0.86-2.13),1.29(0.80-2.10),1.0,0.86(0.39-1.89)

■ 結論
これまでの研究から,思春期に行う運動は,成人期の心血管リスクプロファイルによい影響を及ぼすと考えられている。また,成人期における中程度の運動は,心血管疾患(CVD)発症リスクならびに死亡リスクの低下との関連が知られている。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,思春期ならびに成人期での運動習慣と,CVD死亡リスクとの関連を調べた。その結果,「成人期の運動習慣があり,思春期に運動部に所属していた」男性は,「成人期の運動習慣があり,運動部に所属していなかった」男性と比べて,冠動脈疾患(CHD)死亡リスクが有意に低かった。男性では,思春期の運動習慣が心血管に長期的な影響を及ぼしている可能性が示唆された。


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