[2021年文献] 1日1時間以上のウォーキングは心不全死亡の低下と有意な関連を示す

欧米では,身体活動量と心不全発症リスクは負の関連があることが示されているが,アジア人においてそのような関係を報告した疫学データはこれまでなかった。アジア人と欧米人では運動習慣が異なり,欧米で報告された運動の心不全予防効果がアジア人にも認められるとは限らない。そこで,日本人一般住民の大規模コホートにおいて,ウォーキングやスポーツが心不全死亡リスクに及ぼす影響を評価した。その結果,欧米からの報告と同様に,身体活動量は心不全死亡リスクの低下と関連することが示された。ベースライン時から5,10,15年以内の心不全死亡を除外した解析では有意な関連は消失したが,この背景には追跡期間中の身体活動量および死亡診断の変化,および因果関係の逆転が影響していると考えらえる。しかし,女性では,同期間の心不全死亡を除外しても,1日1時間以上のウォーキングは心不全死亡リスクの低下と関連があったことから,心不全発症予防に有益である可能性が示唆された。

Kushima T, et al.; JACC Study Group. Physical Activity and Risk of Mortality from Heart Failure among Japanese Population. J Atheroscler Thromb. 2021 Aug 30. doi: 10.5551/jat.62843.pubmed

コホート
JACCのベースライン調査(1988~1990年)において自己記入式質問票に回答した40~79歳の日本人11万585人のうち,脳卒中,冠動脈疾患,癌の既往のある6234人,身体活動に関する調査が行われなかった14561人,ウォーキングとスポーツの実施時間に関する情報が得られなかった2952人を除外した86838人(うち女性50615人)。

ウォーキング時間は「1日の平均歩行時間はどのくらいですか?」という質問,スポーツ時間は「1週間にスポーツや運動に費やす平均時間はどのくらいですか?」という質問により,ウォーキング時間およびスポーツ時間をそれぞれ4つのカテゴリーにわけ,2009年までの心不全死亡との関連を評価した(追跡期間中央値は19.1年)。

 ウォーキング時間: <0.5,0.5,0.6~0.9,≧1.0時間/日
 スポーツ時間: <1,1~2,3~4,≧5時間/週

死亡年月日と死因は死亡診断書で確認した(ただし,1995年以前は原因不明の死亡が心不全と診断されている可能性が高く,心不全死亡とされたものの約50%は,実際には冠動脈疾患死または突然死であったとの報告が複数ある)。追跡期間中に居住地から転出した参加者(約8%)の追跡はその時点で打ち切りとした。
結 果
追跡期間中の心不全による死亡は994人。各カテゴリー別の死亡人数は下記の通り。

 ウォーキング時間: [男性]47人,84人,75人,199人; [女性]55人,98人,100人,223人
 スポーツ時間: 283人,75人,30人,34人; 356人,65人,33人,37人

◇対象背景
ベースラインの対象者のカテゴリーごとの背景は以下のとおり(***P<0.001,**P<0.01,*P<0.05)。

・ウォーキング時間(<0.5,0.5[対照],0.6~0.9,≧1.0時間/日)
 対象者数(人): [男性]4116,6119,6397,16550; [女性]4901,7957,9373,23531
 年齢(歳): 55.5***,56.6,57.3**,57.2***; 56.1***,57.7,57.6,57.4*
 BMI(kg/m2): 22.9,22.8,22.7,22.5***; 23.1*,22.9,22.9,22.8**
 高血圧既往(%): 20.9,21.7,21.6,18.3***; 22.6,23.4,23.0,21.0***
 糖尿病既往(%): 7.8,8.3,6.5***,5.5***; 4.5*,5.4,4.6*,3.3***
 飲酒量(エタノール換算,g/日): 28.6,28.0,28.6,29.9***; 31.7,33.7,32.3,32.9
 睡眠時間(時間/日): 7.5*,7.4,7.4,7.5***; 7.1*,7.1,7.1,7.1
 現在喫煙(%): 53.5,52.1,52.5,55.6***; 6.5*,5.1,5.1,5.0
 大学以上の教育(%): 16.5***,23.9,22.2,14.4***; 8.7***,12.0,10.9,9.9***
 オフィスワーカー(%): 47.0,49.7,47.7*,41.8***; 27.1,26.2,25.0,20.8***
 自覚的ストレスあり(%): 27.3,27.1,23.5***,20.7***; 22.3,20.8,19.5,19.4*
 魚の摂取量(g/日): 47.1**,45.1,47.4***,50.7***; 47,47.7,48.3,50.6***
 スポーツ≧5時間/週(%): 1.6***,3.6,6.0***,11.1***; 1.2,1.6,3.2***,7.4***

・スポーツ時間(<1,1~2[対照],3~4,≧5時間/週)
 対象者数(人): [男性]24083,5862,2550,2512; [女性]36606,6625,2640,2230
 年齢(歳): 56.4***,55.8,58.9***,61.7***; 56.7,56.8,59.6***,62.1***
 BMI(kg/m2): 22.6,22.7,22.8,22.7; 22.9,22.9,22.9,22.8
 高血圧既往(%): 19.6,20.1,22,19.4; 22.0,22.9,22.0,19.9*
 糖尿病既往(%): 6.1,7,7.2,6.8; 3.7*,4.5,4.5,4.4
 飲酒量(エタノール換算,g/日): 29.4,29.2,29.4,30.2; 3.0***,3.9,3.8,4.7*
 睡眠時間(時間/日): 7.5**,7.4,7.4,7.5**; 7.1,7.1,7.1,7.1
 現喫煙(%): 55.4***,51.5,51.7,52.4; 5.5***,4.3,5.4,5.0
 大学以上の教育(%): 15.7***,23.6,24.0,19.8***; 9.4***,13.5,13.9,11.3*
 オフィスワーカー(%): 46.6**,49.7,47.7,41.8***; 24.3**,26.8,25,23.1*
 自覚的ストレスあり(%): 23.4*,23.1,22.0*,22.7*; 20.9**,18.9,18.8,17.9
 魚の摂取量(g/日): 48.7*,47.6,47.9,51.3***; 49.2,49.8,49.7,52.3**
 ウォーキング≧1時間/日(%): 48.3***,44.0,47.9,73.4***; 49.3,48.8,56.5***,78.4***

◇ ウォーキング時間と心不全による死亡の関連
ウォーキング時間が0.5時間/日のカテゴリーと比較した各カテゴリーの心不全死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。男女ともに,1日1時間以上のウォーキングは心不全死亡リスクの低下と有意な関連があることが示された(年齢,スポーツ時間,BMI,飲酒量,喫煙歴,職種,魚の摂取量で調整)。

 ウォーキング時間(時間/日)
 男性: 0.93(0.65-1.34),1.0,0.78(0.57-1.07),0.76(0.59-0.99)
 女性: 1.15(0.83-1.61),1.0,0.87(0.66-1.15),0.78(0.61-0.99)

また,ウォーキングに影響を及ぼしうる心不全発症前の心不全または他疾患の影響を排除するため,ベースラインから5年,10年,15年以内ごとの心不全死亡を除外した感度分析では,男性における有意な関連は消失したが,≧1.0時間の女性では大きな変化はみられなかった

◇ スポーツ時間と心不全による死亡の関連
スポーツ時間1~2時間/週のカテゴリーと比較した各カテゴリーの心不全死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。スポーツ時間≧5時間の男性のみにおいて,心不全死亡低下との有意な関連が示された(性の交互作用P=0.048)。この有意な関連は,ベースラインから5年,10年,15年以内の心不全死亡を除外した感度分析では消失した(年齢,ウォーキング時間,BMI,飲酒量,喫煙歴,職種,魚の摂取量で調整)。

 スポーツ時間(時間/週)
 男性: 0.93(0.72-1.21),1.0,0.67(0.44-1.02),0.62(0.41-0.93)
 女性: 1.06(0.81-1.38),1.0,0.95(0.63-1.45),1.09(0.73-1.65)

◇ 結論
欧米では,身体活動量と心不全発症リスクは負の関連があることが示されているが,アジア人においてそのような関係を報告した疫学データはこれまでなかった。アジア人と欧米人では運動習慣が異なり,欧米で報告された運動の心不全予防効果がアジア人にも認められるとは限らない。そこで,日本人一般住民の大規模コホートにおいて,ウォーキングやスポーツが心不全死亡リスクに及ぼす影響を評価した。その結果,欧米からの報告と同様に,身体活動量は心不全死亡リスクの低下と関連することが示された。ベースライン時から5,10,15年以内の心不全死亡を除外した解析では有意な関連は消失したが,この背景には追跡期間中の身体活動量および死亡診断の変化,および因果関係の逆転が影響していると考えらえる。しかし,女性では,同期間の心不全死亡を除外しても,1日1時間以上のウォーキングは心不全死亡リスクの低下と関連があったことから,心不全発症予防に有益である可能性が示唆された。


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