[2013年文献] 日系アメリカ人男性の肝臓脂肪量は,白人男性より多く,日本人男性より少ない

体内の脂肪貯蔵能には人種差がある(皮下脂肪組織への脂肪貯蔵能が低ければ,肝臓をはじめとした異所性の脂肪蓄積[ectopic fat storage]が増加する)という仮説のもと,ERA-JUMPの日本人男性および非ヒスパニック系白人(NHW)男性を対象とした過去の報告(抄録へ)をふまえ,肝臓と脾臓のCT値の比(L/S比)で評価した肝臓脂肪量ならびに代謝系危険因子の値を,ハワイ在住の日系アメリカ人男性も含めて比較した。その結果,遺伝的背景は日本人に近いものの肥満度はNHWに近い日系アメリカ人男性における肝臓脂肪量は,日本人男性とNHW男性の中間であった。この結果から,日本人は体内の脂肪貯蓄能が低いために脂肪肝になりやすい可能性が示唆された。

Azuma K, et al. Ethnic difference in liver fat content: a cross-sectional observation among Japanese American in Hawaii, Japanese in Japan, and non-Hispanic whites in United States. Obes Res Clin Pract. 2013; 7: e198-205.pubmed

コホート
2002~2006年に心血管疾患,1型糖尿病,あるいはその他の重篤な疾患がなかった40~49歳の男性867人のうち,CT画像を有する845人(断面解析)。内訳は,米国ハワイ在住の日系アメリカ人303人のうちCT画像を有する244人,滋賀県草津市の日本人313人,ならびに米国ペンシルベニア州アレゲーニーの非ヒスパニック系白人(NHW)男性310人のうちCT画像を有する288人。

CT検査により内臓脂肪組織(visceral adipose tissue: VAT),皮下脂肪組織(subcutaneous adipose tissue: SAT)を測定するとともに,肝臓と脾臓のCT値の比(L/S比)により肝臓脂肪量を評価(低値ほど肝臓脂肪量が多い)。L/S比<1の場合に脂肪肝とした。
結 果
◇ 対象背景
ベースライン時の年齢,BMI,飲酒状況は以下のとおり(**P<0.01 vs. 日系アメリカ人)。
  年齢(歳): 日本人45.1**,日系アメリカ人45.9,白人45.0**
  BMI(kg/m2): 23.6**,27.8,27.8
  エタノール摂取量(g/日): 27**,18,10**

◇ 肝臓脂肪量の比較
日本人,日系アメリカ人,白人の肝臓/脾臓比(L/S比)はそれぞれ1.01,1.03,1.07で,日系アメリカ人に比して日本人の肝臓脂肪量は有意に多く,白人男性ではBMIが同等であるにもかかわらず有意に少なかった(いずれもP<0.05)。

◇ 肝臓脂肪量と内臓脂肪組織面積の関連
日本人,日系アメリカ人,白人とも,L/S比が低い(肝臓脂肪量が多い)ほど内臓脂肪組織面積が大きかった。

◇ 代謝系因子の比較
おもな代謝系因子の値を比較した結果は以下のとおりで(*P<0.05,**P<0.01 vs. 日系アメリカ人),日系アメリカ人では,BMI,内臓脂肪面積,トリグリセリド,HOMA-IRが白人と同等だったが,CRPは低く,糖尿病有病率は有意に高かった。
  トリグリセリド(mg/dL): 155*,184,152
  HOMA-IR: 2.77**,4.29,3.89
  糖尿病有病率: 6.1%*,13.1%,3.1%**
  CRP(mg/dL): 0.74**,1.36,1.62**
  内臓脂肪組織面積(cm2): 133,175,172
  皮下脂肪組織面積(cm2): 136**,225,252


◇ 結論
体内の脂肪貯蔵能には人種差がある(皮下脂肪組織への脂肪貯蔵能が低ければ,肝臓をはじめとした異所性の脂肪蓄積[ectopic fat storage]が増加する)という仮説のもと,ERA-JUMPの日本人男性および非ヒスパニック系白人(NHW)男性を対象とした過去の報告(抄録へ)をふまえ,肝臓と脾臓のCT値の比(L/S比)で評価した肝臓脂肪量ならびに代謝系危険因子の値を,ハワイ在住の日系アメリカ人男性も含めて比較した。その結果,遺伝的背景は日本人に近いものの肥満度はNHWに近い日系アメリカ人男性における肝臓脂肪量は,日本人男性とNHW男性の中間であった。この結果から,日本人は体内の脂肪貯蓄能が低いために脂肪肝になりやすい可能性が示唆された。


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