[学会報告・日本循環器学会2015]日高コホート研究,久山町研究,岩手県北地域コホート研究,岩手県北心疾患発症登録,NIPPON DATA,SESSA,吹田研究,高畠研究ほか


第79回日本循環器学会学術集会は,2015年4月24日(金)~26日(日)の3日間,大阪で開催された。ここでは,学会で発表された疫学研究の一部を紹介する。

会場写真
(写真左・中: 学会場のようす,右: グランフロント大阪に設けられたAED体験コーナー )
■ 目 次 ■ * タイトルをクリックすると,各項目にジャンプします
福島県の避難区域住民 東日本大震災・原発事故後に心房細動の有病率が増加
日高コホート研究 コレステロールエステル化速度の亢進は,冠動脈疾患+突然死のリスク上昇と関連する
久山町研究 血清アンジオポエチン様蛋白2高値は心血管疾患発症の独立した危険因子
岩手県北地域
  コホート研究
女性の血清尿酸高値は心血管疾患発症の独立した危険因子
岩手県北心疾患発症登録 最近10年間の拡張性心不全の発症率は男女とも変化なし
NIPPON DATA 非特異的な心電図異常を複数あわせもつ人は心血管疾患死亡リスクが高い
SESSA 心電図異常を有する人では潜在性動脈硬化がみられる
吹田研究 収縮期前高血圧(120~139 mmHg)と過体重の合併は心房細動罹患リスクと関連
高畠研究 座りがちな生活習慣をもつ人の心血管疾患死亡リスクは高い
高畠研究 AST/ALT比は全死亡の独立した予測因子

[福島県の避難区域住民] 東日本大震災・原発事故後に心房細動の有病率が増加

発表者: 福島県立医科大学・鈴木 均 氏 (4月25日,Featured Research Session 13)
  目的: 東日本大震災ならびにその後の福島第一・第二原子力発電所事故(原発事故)を含む二次災害の前後で,福島県の避難対象区域における心房細動の有病率が増加したかどうかを検討。
  コホート・手法: 避難対象区域*となった福島県の12市町村の居住者で,2008~2010年(震災前)に12誘導心電図を含む健診を受けた40~90歳の26163人のうち,2011年6月~2013年3月(震災後)に追跡健診を受けた12410人(男性5704人,女性6706人)を対象とし,震災前後の心房細動の有病率を比較した(期間中に複数回受診した人については,震災発生にもっとも近いデータを使用)。追跡期間の平均は1.4年間。
  結果: 心房細動の有病率は,震災前(1.9%)にくらべて震災後に有意に増加しており(2.4%,P<0.001),性別,および年齢層別(70歳未満/以上)にみても同様の結果であった。震災後の心房細動新規発症率は1000人・年あたり4.5人で,発症の有意な危険因子(多変量調整)は年齢,性別,肥満,および多量飲酒(アルコール44 g/日以上)。
*2011年3月11日に発生した原発事故後,同年3月12日には20 km圏内に避難指示,3月15日には30 km圏内に屋内待避指示が出された。同年4月22日,20 km圏内には警戒区域(罰則規定を伴う厳しい立入制限・退去命令あり)の指定が加わり,20 km圏外の特定の地域は計画的避難区域(1か月以内の立退きを要する)または緊急時避難準備区域(立入制限はないが自主的避難[とくに子供・妊婦]を推奨)に設定された。このうち30 km圏内の緊急時避難準備区域については同年9月30日に解除。その後も再三の見直しが行われ,いまだ20 km圏内ならびに20 km圏外の特定の地域が以下のいずれかに該当。2015年4月30日現在も4万6000人以上が県外に避難している状況である。
 [帰還困難区域(50 mSv/年超)] 立入・宿泊は原則禁止
 [居住制限区域(20 mSv/年~50 mSv/年)] 立入・一部事業活動は可,宿泊は原則禁止
 [避難指示解除準備区域(放射線量が20 mSv/年以下)] 立入・事業活動は可,宿泊は原則禁止

参考: 福島県ホームページ,文部科学省ホームページ

鈴木 均氏 鈴木 均氏のコメント
東日本大震災の発生から4年が経過し,震災が被災者に及ぼした医学的な影響が次々と明らかになってきました。循環器疾患については,それまで報告のなかった心不全の増加が被災3県を中心に報告されており,さらに今回のわれわれの検討で,心房細動も増加したことが新たに判明しました。多量飲酒や肥満が心房細動発症の危険因子であったことから,震災後に避難を余儀なくされた住民において,仮設住宅への入居,見知らぬ土地での生活などにより,運動不足や食生活の変化,ストレスの増大が起こり,これらが心房細動の発症に影響したと推測されました。今後,震災による生活習慣の変化,心理・社会的なストレスの影響についてさらに詳細な検討を行い,高血圧,糖尿病,脂質異常症などの健診結果との関連を分析することで,住民の疾病対策,ならびに健康維持・増進に役立てていく必要があると考えられます。


[日高コホート研究] コレステロールエステル化速度の亢進は,冠動脈疾患+突然死のリスク上昇と関連する

発表者: 公立豊岡病院日高医療センター・田中 愼一郎 氏 (4月26日,Late Breaking Cohort Studies 3)
  目的: コレステロールエステル化反応速度の指標となるレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ*(lecithin-cholesterol acyltransferase: LCAT)の活性と,冠動脈疾患発症および突然死リスクとの関連を前向きに検討。
  コホート・手法: 1993年に健診を受けた,心血管疾患または癌の既往のない兵庫県日高町(現・豊岡市)の住民1927人(男性791人,女性1136人)を11年間追跡。対象者をLCAT活性(nmol/mL/時間)の三分位(T1: 66未満[対照]/T2: 66~84/T3: 84超)によるカテゴリーに分類した。
  結果: LCAT活性のカテゴリー間で比較すると,T3の冠動脈疾患+突然死の多変量調整ハザード比は,T1に対して3.07と有意に高かった。この結果を男女別にみると,女性のT3では,T1に比して多変量調整ハザード比が6.08と有意に高かったが,男性のT3では,T1との有意差はみとめられなかった。
* 血中のHDL分画に存在し,遊離型コレステロールのエステル化反応を触媒する酵素。これにより生じたコレステロールエステルは,肝臓へのコレステロールの逆転送に重要な働きをもつと考えられてきたものの,LCAT活性の亢進と動脈硬化との関連については,動物モデルでも臨床研究でも,これまでに一致した結果は得られていない。

田中 愼一郎氏 田中 愼一郎氏のコメント
脂質代謝機能の一側面としてのコレステロールエステル化反応に着目して検討を行った結果,日本人一般住民において,レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)の活性上昇が冠動脈疾患や突然死のリスクに関連する可能性が示唆されました。これは,LCAT活性の亢進が動脈硬化に抑制的に働くとしていた従来の理解を覆すものです。今回の結果のメカニズムとしてわれわれが考えているのは,(1)LCATが触媒するコレステロールエステル化反応に伴って生成されるリゾホスファチジルコリン(lysoPC: 血管の拡張反応を障害する作用をもつ)が冠攣縮や突然死のリスクを増加させる可能性,ならびに(2)コレステロールエステル化反応によって生成されたコレステロールエステルの超低密度リポ蛋白(VLDL)への転送増加,およびそれに伴う低密度LDL(small dense LDL)の増加によって,動脈硬化や心筋梗塞のリスクが高くなる可能性の二つです。トリグリセリドに富む(TGリッチ)リポ蛋白はコレステロールエステル化反応を促進することがすでに示されており,本研究の結果は,TGリッチリポ蛋白が心臓突然死リスクに関連するメカニズムの一部を説明するものと考えられます。今回みられた性差の原因については,本研究では明らかにできませんでした。今後の研究結果が待たれます。
文献情報文献情報 Tanaka S et al. Increased serum cholesterol esterification rates predict coronary heart disease and sudden death in a general population. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2013; 33: 1098-104. pubmed


[久山町研究] 血清アンジオポエチン様蛋白2高値は心血管疾患発症の独立した危険因子

発表者: 九州大学・秦 淳 氏 (4月26日,一般口演)
  目的: 血清アンジオポエチン様蛋白2(Angptl2)値*と心血管疾患発症リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: 久山町研究。2002年の健診を受診した40歳以上の3087人を,2012年11月まで10.2年(中央値)追跡。Angptl2値(ng/mL)の四分位によるカテゴリー(0.02~2.25/2.26~2.84/2.85~3.62/3.63~12/23)を用いた。(久山町研究へ
  結果: 心血管疾患(冠動脈疾患[CHD]+脳卒中)およびCHDの多変量調整ハザード比は,血清Angptl2値が高い四分位ほど有意に高かったが,脳卒中では有意な関連はなかった。血清Angptl2値と心血管疾患のハザード比との関連は,メタボリックシンドロームの構成因子,および高感度CRP値で調整後も有意であった。
* アンジオポエチン様蛋白2(Angptl2): アディポカインの1つ。血管新生を促進するアンジオポエチンに類似した構造をもち,N末端側にcoiled-coilドメイン,C末端にフィブリノゲン様ドメインを有する。ヒトの肥満や炎症に密接に関わっている。

秦 淳氏 秦 淳氏のコメント
アンジオポエチン様蛋白2(Angptl2)は脂肪組織で産生されるアディポカインで,炎症関連遺伝子の発現を誘導し,インスリン抵抗性や血管内皮障害などを介して動脈硬化の発症・進展に関与していると考えられます。今回の検討では,Angptl2と心血管疾患,とくに冠動脈疾患の発症リスクとの有意な正の関連がみとめられました。この関連は,メタボリックシンドロームの構成因子および高感度CRPで調整すると減弱しましたが,有意な関連は残りました。つまり,Angptl2と心血管疾患発症との関連の一部にはメタボリックシンドロームと炎症が介在しているものの,それ以外の未知のメカニズムも存在している可能性があります。


[岩手県北地域コホート研究]女性の血清尿酸高値は心血管疾患発症の独立した危険因子

発表者: 岩手医科大学・瀬川 利恵 氏 (4月25日,Late Breaking Cohort Studies 2)
  目的: 血清尿酸値が,他の心血管危険因子とは独立して心血管疾患(CVD: 脳卒中+急性心筋梗塞+突然死)リスクと関連するかどうかを,男女別に検討。
  コホート・手法: 岩手県北地域コホート研究の40歳以上の21435人(男性7337人,女性14098人)を平均5.5年間追跡。 血清尿酸値(mg/dL)により,対象者を男女別に6カテゴリー(3未満/3以上4未満/4以上5未満/5以上6未満/6以上7未満/7以上)に分類した。(岩手県北地域コホート研究へ
  結果: 男性では,血清尿酸値とCVDの多変量調整ハザード比との関連はみられなかった。一方,女性では,4 mg/dL以上のすべてのカテゴリーで,3 mg/dL未満(対照)に比したCVDの多変量調整ハザード比が有意に高かった。また,高血圧・肥満・脂質異常症・糖尿病・喫煙・飲酒・慢性腎臓病のいずれにも該当しない女性(3092人)のみを対象に検討すると,血清尿酸値6 mg/dL以上7 mg/dL未満のカテゴリーで,対照に比してCVDの多変量調整ハザード比が有意に高くなっていた(7 mg/dL以上のカテゴリーは該当者なし)。
瀬川 利恵氏 瀬川 利恵氏のコメント
血清尿酸値と心血管疾患の関連については,これまでに相反する報告がありますが,今回の解析では,女性において尿酸高値が心血管疾患の独立した危険因子であることが示されました。また,尿酸値に影響すると考えられる種々の危険因子を有していない,ほぼ健常と考えられる女性のみを対象とした解析でも,尿酸高値は心血管疾患の危険因子であることが示されました。これらの結果から,尿酸値の高い女性では心血管疾患の発症リスクが高いと考えて診療にあたる必要があると考えます。今後の介入研究により,実際に尿酸値を低下させることによって心血管病の発症を減少させることができるかどうかを検証する必要があります。


[岩手県北心疾患発症登録] 最近10年間の拡張性心不全の発症率は男女とも変化なし

発表者: 岩手医科大学・本間 美穂 氏 (4月26日,ポスター)
  目的: 一般住民における急性非代償性心不全の発症率の推移を調査。
  コホート・手法: 岩手県北心疾患発症登録。岩手県北地域(人口13万人)における,2003~2012年の医療機関受診者のカルテを調査し,2003~2006年,2007~2009年,2010~2013年の3つの期間における急性非代償性心不全(フラミンガム基準に基づいて診断)の新規発症者数を比較した(2010年の日本人標準人口に基づいて補正)。
  結果: 期間中に心不全を新規発症したのは1393人(男性632人,女性761人)。心不全の発症率(年齢調整)は,男性では変化がなかったが,女性では有意に低下していた。また,左室機能別に検討すると,収縮性心不全(HFrEF: 左室駆出率50%未満)の発症率は男性では変わらず,女性では有意に低下していた。一方,拡張性心不全(HFpEF: 左室駆出率50%以上)については男女とも変化はみられなかった。
本間 美穂氏 本間 美穂氏のコメント
高齢化に伴う心不全患者の増加が懸念されているなかで,今回,人口の流動性が少なく,約30%以上が65歳以上という高齢化率の高い地域における検討ができたことは大変意義のあることだと考えています。とくに,左室収縮能障害の程度別に発症率の経時的な推移を調査した結果,男性においては拡張性心不全,収縮性心不全ともに変化がなかった一方で,女性においては収縮性心不全の発症率が低下していました。このような性差に関して,これまでに欧米から同様の報告はなく,非常に興味深い結果といえます。女性の収縮性心不全の発症率が低下している理由についてはさまざまな考察が可能ですが,われわれの別の検討では,今回と同じ期間における心筋梗塞の発症率は男女ともに低下しており,その低下率には男女差はありませんでした。このことから,虚血性心疾患にくらべ,心不全については高血圧や糖尿病,脂質代謝異常などの併存疾患が女性で減少しているか,もしくは治療により改善している,すなわち一次予防対策の効果があった可能性が示唆されました。


[NIPPON DATA] 非特異的な心電図異常を複数あわせもつ人は心血管疾患死亡リスクが高い

発表者: 慶應義塾大学・澤野 充明 氏 (4月26日,一般口演)
  目的: 長期的な心血管疾患(CVD)死亡リスク評価において,非特異的な心電図異常の集積が,既知の危険因子とは独立した予後予測能をもつかどうかを検討。
  コホート・手法: NIPPON DATA80およびNIPPON DATA90の16816人を20年間追跡。
以下の3種類の非特異的心電図異常の有無によって,「なし/1種類/2種類以上」に対象者を分類した:(1)電気軸異常(左軸偏位,時計回り回転など),(2)構造異常(左室肥大,心房拡大など),(3)再分極異常(高度または軽度ST-T異常)。なお同じ種類の異常(たとえば左軸偏位と時計回り回転)をあわせもつ場合は「1種類」とした。既知の心血管危険因子の影響を考慮し,フラミンガムリスクスコアまたはNIPPON DATAリスクチャート(抄録へ)による調整を行った。(NIPPON DATAへ
  結果: [フラミンガムリスクスコアによる調整]性別を問わず,心電図異常が1種類の人,2種類以上の人とも,異常なしの人にくらべてCVD死亡リスク,冠動脈疾患死亡リスクおよび脳卒中死亡リスクがいずれも有意に高かった。[NIPPON DATAリスクチャートによる調整]性別を問わず,心電図異常が1種類の人,2種類以上の人とも,異常なしの人にくらべてCVD死亡リスクが有意に高く,心電図異常が2種類以上の人では冠動脈疾患死亡リスクおよび脳卒中死亡リスクも有意に高かった。
澤野 充明氏 澤野 充明氏のコメント
軽度の異常とされる非特異的な心電図所見(例: 左軸偏位や再分極異常)は,健常者集団では4人に1人は認められる,ありふれた異常所見で,医療者のあいだではそれなりに注意を払われるものの,長期的な予後との関連は不明でした。今回の20年間にわたるコホート追跡結果では,一つ一つの異常所見の予後に対する影響は小さいものの,これらが2種類以上組み合わさると,有意に予後が不良になるという結果が得られました。また,内外の代表的な循環器疾患リスク予測ツールのスコアによる調整を行っても,なお有意な関連がみられたことも重要です。まさに「塵も積もれば山となる」ことを示した結果であるといえます。今後,これらの心電図異常の病態機序を明らかにし,異常所見の集積がみられた場合に,現場での精査や治療方針をどう考えるべきかを検証していきたいと考えています。


[SESSA] 心電図異常を有する人では潜在性動脈硬化がみられる

発表者: 滋賀医科大学・久松 隆史 氏 (4月26日,ポスター)
  目的: 地域一般住民を対象に,心電図異常(minor/major)と潜在性動脈硬化との関連を横断的に検討。
  コホート・手法: 滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA): 滋賀県草津市一般住民より無作為に抽出された40~79歳の男性994人。
潜在性動脈硬化の指標として,CT画像を用いて定量化した冠動脈石灰化スコア(≧10を「冠動脈石灰化あり」と定義),ならびに超音波検査により評価した頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)を用いた。心電図異常については,先行研究pubmedに倣って以下のとおり定義。(1)major心電図異常: Q波/QSパターン(ミネソタコード[MC]1-1~1-2-8),左室肥大(MC 3-1),WPW症候群(MC 6-4),完全脚ブロック(MC 7-1-1,7-2-1,7-4,7-8),心房細動/粗動(MC 8-3),高度ST-T異常(MC 4-1,4-2,5-1,5-2),(2)minor心電図異常: 軽度ST-T異常(MC 4-3,4-4,5-3,5-4)
  結果: [冠動脈石灰化]冠動脈石灰化の多変量調整オッズ比は,心電図異常を有さない人と比較して,minor心電図異常を有する人において高い傾向がみられ,major心電図異常を有する人において有意に高かった。[頸動脈IMT]交絡因子を調整後も,心電図異常を有さない人と比較して,minor心電図異常を有する人において頸動脈IMT値が有意に高かった。major心電図異常を有する人では有意差を認めなかったものの,高度ST-T異常を有する人においては,頸動脈IMT値が有意に高かった。
久松 隆史氏 久松 隆史氏のコメント
これまでの国内外の疫学研究から,majorおよびminorな心電図異常が,将来の心血管疾患発症に対する独立した予測因子であることが示されていますが,心血管疾患発症に至るメカニズムとして,不整脈などの突発的なイベントを介しているのか,あるいは動脈硬化を介しているのかはまだ明らかになっていません。そこで今回,日本人一般住民において心電図異常と潜在性動脈硬化との関連を横断的に検討した結果,心電図異常は冠動脈石灰化および頸動脈IMT肥厚と関連していたことから,心電図異常は動脈硬化を介して心血管疾患発症に関連する可能性が示唆されました。なおmajor心電図異常については頸動脈IMTとの有意な関連をみとめませんでしたが,これは,今回の「major心電図異常」の定義にさまざまな心電図所見が含まれていた影響と考えられます。SESSAでは追跡調査も行っていますので,今後,心電図異常と動脈硬化進展度との関連についても縦断的に検討したいと考えています。


[吹田研究] 収縮期前高血圧(120~139 mmHg)と過体重の合併は心房細動罹患リスクと関連

発表者: 国立循環器病研究センター・小久保 喜弘 氏 (4月26日,一般口演)
  目的: 血圧,BMI,ならびにその組合せと心房細動罹患リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: 吹田研究。心房細動既往のない30~84歳の6906人を12.8年間追跡。
BMI,収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),およびSBPとDBPによるカテゴリーを以下のように設定し,それぞれに対象者を分類した。[BMI]低体重: 18.5 kg/m²未満/正常: 18.5 kg/m²以上25 kg/m²未満/過体重: 25 kg/m²以上,[SBP]正常: 120 mmHg未満/収縮期前高血圧: 120~139 mmHg/収縮期高血圧: 140 mmHg以上,[DBP]正常: 80 mmHg未満/拡張期前高血圧: 80~89 mmHg/拡張期高血圧: 90 mmHg以上,[SBP / DBP]正常血圧: 120 / 80 mmHg未満/前高血圧: 120~139 / 80~89 mmHg/高血圧: 140 / 90 mmHg以上(吹田研究へ
  結果: 収縮期高血圧,拡張期高血圧,高血圧,ならびに過体重の人では,それぞれ正常に比して,いずれも心房細動罹患の多変量調整ハザード比が有意に高かった。SBPとBMIの組合せによる9つのカテゴリー間で心房細動罹患の多変量調整ハザード比を比較した結果,「正常SBP+正常BMI」(対照)に比して有意にリスクが高かったのは,「収縮期前高血圧+過体重」,「収縮期高血圧+正常BMI」,および「収縮期高血圧+過体重」であり,SBPとBMIの有意な交互作用がみとめられた。
小久保 喜弘氏 小久保 喜弘氏のコメント
日本人の心房細動罹病リスクに関する追跡研究は,きわめて少ないのが現状です。そのようななかで今回,収縮期血圧とBMIとのあいだに交互作用がみられたことは初めての知見です。2008年から始まった特定健診制度では,心電図が必須項目ではなくなりました。潜在的な心房細動有病者を見逃してしまうことによる,脳梗塞の発症の増加が懸念されます。今回の結果から,収縮期高血圧の方,また過体重/肥満に収縮期前高血圧をあわせもつ方には,心電図検査を実施し,潜在性心房細動がないかどうかを確認することが予防医学的に重要と考えられます。とくに,過体重/肥満に収縮期前高血圧をあわせもつ方では,適切な保健指導によって,心房細動になりにくい生活習慣を目指すことが大切です。
文献情報文献情報 Kokubo Y, et al. Interaction of Blood Pressure and Body Mass Index With Risk of Incident Atrial Fibrillation in a Japanese Urban Cohort: The Suita Study. Am J Hypertens. 2015. In press 2015. doi: 10.1093/ajh/hpv038pubmed


[高畠研究] 座りがちな生活習慣をもつ人の心血管疾患死亡リスクは高い

発表者: 山形大学・高橋 徹也 氏 (4月26日,一般口演)
  目的: 座りがちな生活習慣と,心筋障害のマーカーならびに心血管疾患死亡リスクとの関連を検討。
  コホート・手法: 高畠研究の40歳以上の3520人を2124日間(中央値)追跡。
身体活動については,自己記入式質問票により,1日あたりの歩行時間および自転車に乗る時間,1週間あたりの勤務または家事を行う時間と強度,および1月あたりの運動および余暇の活動時間をたずね,その結果をもとに身体活動量(METs・時間/日,睡眠時間は含まず)を算出。身体活動量の少ない10パーセンタイル(21.6 METs・時間/日)未満を「座りがちな生活習慣(sedentary lifestyle)」と定義した。(高畠研究へ
  結果: 座りがちな生活習慣の人では,そうではない人にくらべて脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値,ならびに心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP)値が有意に高く,無症候性の心筋障害が進展している可能性が示唆された。座りがちな生活習慣の人における心血管疾患死亡の多変量調整ハザード比は,そうではない人の5倍以上と有意に高かった。
高橋 徹也氏 高橋 徹也氏のコメント
本研究は,一般住民健診において,身体活動度の低さ(座りがちな生活習慣)と心血管疾患死亡の関連を検討したものです。これまでに,一般住民における身体活動度と心血管疾患死亡リスクや脂質マーカーとの関連をみた報告は散見されますが,身体活動度と脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)や心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP)との関係を検討した報告はありませんでした。検討の結果,座りがちな生活習慣の人ではBNPおよびH-FABPが高値であること,ならびに,将来の心血管疾患死亡リスクが有意に高いことが示されました。身体活動度とBNPやH-FABPの関連については,横断研究のため解釈が難しいところですが,近年,心臓リハビリテーションにおいて,運動が心不全患者のBNP値を低下させたという報告があることから,一般住民レベルでの今回のような検討も,大変興味深いものと考えられます。


[高畠研究] AST/ALT比は全死亡の独立した予測因子

発表者: 山形大学・大瀧 陽一郎 氏 (4月26日,ポスター)
  目的: アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)/アラニンアミノ基転移酵素(ALT)比と,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値との関連(横断解析),および死亡リスクとの関連(縦断解析)を検討。
  コホート・手法: 高畠研究の3479人を2124日(中央値)追跡。AST/ALT比の四分位によるカテゴリー(0.95未満/0.95以上1.15未満/1.15以上1.36未満/1.36以上)に対象者を分類した。(高畠研究へ
  結果: [横断解析]BNP値が高いほどAST/ALT比が高い傾向がみられ,AST/ALT比はBNP高値(100 pg/mL以上)との独立した有意な関連を示した。[縦断解析]多変量解析において,AST/ALT比がもっとも高い四分位の全死亡のハザード比は,もっとも低い四分位に比して有意に高かった。また,Kaplan-Meier分析でも,AST/ALT比がもっとも高い四分位はもっとも低い四分位に比し,全死亡率および心血管疾患死亡率が有意に高かった。
大瀧 陽一郎氏 大瀧 陽一郎氏のコメント
本研究は,一般住民健診において,アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)/アラニンアミノ基転移酵素(ALT)比と,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値および全死亡との関連を検討したものです。BNPは生命予後と関連することがこれまでに示されていますが,BNPの測定は健診などで全員に実施されるわけではないことから,一般住民においてBNP高値例を同定することは重要と考えられます。今回の検討では,AST/ALT比はBNP高値と関連を有していたことから,AST/ALT比が高い人におけるBNP測定が有用である可能性が示されました。また,健診では,全死亡および心血管疾患死亡のリスクを早期に同定することが必要です。本研究において,AST/ALT比は,全死亡ならびに心血管疾患死亡の独立した予測因子であることが示されました。ASTとALTは,肝機能検査として健診で測定されているため,そこから簡便に求められるAST/ALT比は,BNP測定の適応の判断や予後予測に有用な指標となりうることが示唆されます。




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