[2013年文献] 乳製品由来脂肪の摂取の指標であるペンタデカン酸の血中レベルが高いほど,心血管イベント・冠動脈イベントのリスクが低下(MESA)

de Oliveira Otto MC, et al. Biomarkers of dairy fatty acids and risk of cardiovascular disease in the Multi-ethnic Study of Atherosclerosis. J Am Heart Assoc. 2013; 2: e000092.pubmed

コメント
米国の白人,黒人,ヒスパニック系,中国系の人種を対象としたコホート研究により,乳製品由来の脂肪摂取の血中指標と心血管疾患および冠動脈疾患発症リスクとの負の関連が示された。日本人ではこれまでに,牛乳・乳製品の摂取,あるいはこれらの食品からのカルシウムの摂取が脳卒中の発症・死亡リスクの低下と関連することが報告されており,これらと符合する結果といえる。今回の結果に関連する議論として,「疫学レクチャー 第6回: 牛乳の摂取と全死亡リスク」の記事も参照されたい。
編集委員・磯 博康
目的
乳製品(とくにその脂肪分)を摂取することで心血管系にどのような影響があるかについては,これまでに複数の研究から異なる結果が得られており,さらに低脂肪や無脂肪といった種類別の検討が少なく,見解が一致していない。その背景として自己申告式の食事調査によるバイアスの可能性も考えられるなかで,ヒトの体内では合成されない脂肪酸の血中濃度を測定することで,乳製品由来の脂肪の摂取を客観的に評価できる可能性が指摘されている。そこで,乳製品由来の3つのリン脂質(ペンタデカン酸,trans-パルミトオレイン酸,ミリスチン酸)の血中濃度と心血管疾患および冠動脈疾患のリスクとの関連について,複数の人種・民族を含む前向きコホート研究による検討を行った。
コホート
MESA(The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis): 2000~2002年,米国の6施設(ノースカロライナ州フォーサイス郡,ニューヨーク州ニューヨーク,メリーランド州ボルティモア[市および郡],ミネソタ州セントポール,イリノイ州シカゴ,カリフォルニア州ロサンゼルス)で登録された,心血管疾患既往のない45~84歳の6814人(非ヒスパニック系白人,黒人,ヒスパニック系または中国系)のなかから人種ごとに無作為抽出された2856人の血中のリン脂質濃度を測定。心血管疾患発症に関するデータに不備のある43人を除き,2837人(非ヒスパニック系白人25.5%,ヒスパニック系24.8%,中国系25.1%,黒人24.6%)を2010年まで追跡した(19778人・年)。

血中のコレステロールエステル,トリグリセリドおよび遊離脂肪酸中のリン脂質から,ガスクロマトグラフィーにより41の脂肪酸を分離。ペンタデカン酸(15:0),trans-パルミトオレイン酸(trans-16:1n-7),ミリスチン酸(14:0)のそれぞれについて,血中の全脂肪酸に占める割合を測定した(ただし,ミリスチン酸はヒトの体内でも合成されるため,乳製品由来の脂肪摂取の指標としての有用性は低い可能性がある)。

アウトカムの定義は以下のとおりとした。
・心血管イベント: 心筋梗塞,蘇生できた心停止,冠動脈疾患死亡,その他の動脈硬化疾患による死亡,狭心症[確診/疑い],脳卒中,その他の心血管疾患による死亡のいずれかの発生
・冠動脈イベント: 心筋梗塞,蘇生できた心停止,冠動脈疾患死亡,狭心症[確診/疑い]のいずれかの発生
結 果
◇ 対象背景
年齢61.5歳,女性53%,BMI 27.9 kg/m2,糖尿病有病率13%,喫煙率13.7%,乳製品の摂取は1日あたり1.5サービング。
血中のペンタデカン酸,trans-パルミトオレイン酸,ミリスチン酸の構成割合は,それぞれ全脂肪酸の0.17%,0.05%,0.26%であった。

自己申告による食事調査結果と乳製品由来脂肪酸の血中レベルとの関連を検討したところ,ペンタデカン酸との関連が強かったのはチーズや,牛乳,バターなど,脂肪分を多く含む乳製品の摂取であった。ミリスチン酸についても同じような傾向がみられたが,関連は弱かった。trans-パルミトオレイン酸との関連が強かったのは,マーガリン,フライドポテト,焼菓子などの摂取であり,今回の対象者における血中のtrans-パルミトオレイン酸はこのようなトランス脂肪酸を含む加工食品由来のものであると考えられた。

◇ 乳製品由来の脂肪酸と心血管危険因子(断面解析)
ベースラインにおいて,多変量調整後も乳製品由来の各脂肪酸の血中レベルとの関連がみられたのは以下の項目であった。
施設,年齢,性,人種・民族,学歴,喫煙状況,飲酒量,身体活動,糖尿病,BMIで調整)

・ペンタデカン酸: 高値ほど,収縮期血圧(P for trend<0.0001),拡張期血圧(P for trend<0.0001),トリグリセリド(P for trend<0.01)が有意に低かった。
trans-パルミトオレイン酸: 高値ほど,LDL-Cが有意に高く(P for trend=0.04),収縮期血圧(P for trend=0.03),拡張期血圧(P for trend<0.01),トリグリセリド(P for trend<0.0001)が有意に低かった。
・ミリスチン酸: 高値ほど,収縮期血圧(P for trend=0.02),拡張期血圧(P for trend=0.03),トリグリセリド(P for trend<0.0001),総コレステロール/HDL-C比(P for trend<0.01)が有意に高かった。

◇ 乳製品由来脂肪酸の血中レベルと心血管イベントリスク
追跡期間中の心血管イベントは189件。

各乳製品由来脂肪酸の血中レベルの各五分位(Q1[低値]~Q5[高値]),ならびに1 SDの増加あたりの心血管イベントの多変量調整ハザード比¶は以下のとおり。
(¶施設,年齢,性,人種・民族,学歴,喫煙状況,飲酒量,身体活動,低脂肪・全脂肪乳製品の摂取,肉類の摂取,総摂取エネルギー,食物繊維の摂取,野菜・果物の摂取で調整)

・ペンタデカン酸:
血中レベルの1 SD増加に伴って有意に心血管イベントのリスクが低下しており,この結果はさらにtrans-パルミトオレイン酸とミリスチン酸の血中レベルによる調整を行っても同様であった。また,人種・民族,性を問わず,同様の結果が得られた。
  Q1: 1.0(対照),Q2: 0.71(0.45-1.14),Q3: 0.93(0.60-1.44),Q4: 0.85(0.53-1.37),Q5: 0.55(0.32-0.95),P for trend=0.06
  1 SD(0.05%)増加あたりの多変量調整ハザード比: 0.81(0.68-0.98)

trans-パルミトオレイン酸
血中レベルと心血管イベントリスクとの関連はみられなかった。また,トランス脂肪酸を含むその他の食品(焼菓子,スナック類,フライドポテトなど)でさらに調整を行っても,結果は同様であった。
  Q1: 1.0,Q2: 1.05(0.64-1.74),Q3: 1.27(0.78-2.08),Q4: 1.36(0.81-2.28),Q5: 0.99(0.58-1.69),P for trend=0.88
  1 SD(0.03%)増加あたりの多変量調整ハザード比: 0.97(0.82-1.13)

・ミリスチン酸
血中レベルと心血管イベントリスクとの関連はみられなかった。
  Q1: 1.0,Q2: 0.98(0.62-1.57),Q3: 1.26(0.80-1.98),Q4: 1.18(0.73-1.89),Q5: 1.06(0.65-1.74),P for trend=0.67
1 SD(0.08%)増加あたりの多変量調整ハザード比: 1.02(0.87-1.20)

◇ 乳製品由来脂肪酸の血中レベルと冠動脈イベントリスク
追跡期間中の冠動脈イベントは146件。
各乳製品由来脂肪酸の血中レベルの各五分位,ならびに1 SDの増加あたりの冠動脈イベントの多変量調整ハザード比¶は以下のとおり。

・ペンタデカン酸
血中レベルの1 SD増加に伴って有意に冠動脈イベントのリスクが低下していた。
  Q1: 1.0(対照),Q2: 0.68(0.40-1.15),Q3: 0.68(0.40-1.14),Q4: 0.70(0.41-1.20),Q5: 0.41(0.22-0.78),P for trend=0.01
  1 SD増加あたりの多変量調整ハザード比: 0.74(0.60-0.92)

trans-パルミトオレイン酸
血中レベルと冠動脈イベントリスクとの関連はみられなかった。
  Q1: 1.0,Q2: 0.82(0.46-1.45),Q3: 1.12(0.65-1.92),Q4: 0.83(0.45-1.52),Q5: 0.82(0.45-1.49),P for trend=0.63
  1 SD増加あたりの多変量調整ハザード比: 0.91(0.75-1.10)

・ミリスチン酸
血中レベルと冠動脈イベントリスクとの関連はみられなかった。
  Q1: 1.0,Q2: 1.16(0.67-2.02),Q3: 1.48(0.86-2.53),Q4: 1.36(0.78-2.37),Q5: 1.13(0.63-2.03),P for trend=0.68
  1 SD増加あたりの多変量調整ハザード比: 1.01(0.84-1.21)

◇ 感度分析
心血管イベントから狭心症(確診/疑い)を除外したうえで解析を行っても,結果はほぼ同様であった。
また,BMI,糖尿病,脂質低下薬服用,LDL-C,降圧薬服用などによる調整を行っても,同様の結果が得られた。


◇ 結論
米国の複数の人種・民族を含む前向きコホート研究において,乳製品由来脂肪の摂取の指標である,乳製品由来脂肪酸の血中レベルと心血管イベントならびに冠動脈イベントリスクとの関連を検討した。断面解析の結果,ペンタデカン酸(15:0)の血中レベルは血圧およびトリグリセリドと負の関連を示していた。また,前向きの解析を行うと,ペンタデカン酸の血中レベルが高いと心血管イベントならびに冠動脈イベントのリスクが有意に低下することが示され,この結果は人種・民族や性別を問わず同様にみとめられた。trans-パルミトオレイン酸(trans-16:1n-7)およびミリスチン酸(14:0)と心血管イベントリスクとの関連はみられなかった。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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