[2014年文献] 5.1g以上の塩分摂取は世界で年間165万人の心血管死に寄与(Global Burden of Disease NUTRICODE)

Mozaffarian D, et al.; Global Burden of Diseases Nutrition and Chronic Diseases Expert Group. Global sodium consumption and death from cardiovascular causes. N Engl J Med. 2014; 371: 624-34.pubmed

コメント
食塩摂取と心血管疾患死亡リスクとの関連について,大規模なデータベースやメタ解析を用いて詳細な定量化を行った研究である。その結果,1日約5 g(WHOの摂取目標)を超える食塩摂取が寄与している循環器疾患死亡者数は165万人(すべての循環器疾患死亡の10%)と推定され,そのうち8割が低・中所得国での死亡であった。生活習慣病がいまや先進国や高所得国の問題とは限らないことを如実に示しており,注目すべき結果である。また,わが国を含めた食塩摂取量が比較的多い国において,世界の平均摂取量である約10 gにまで摂取量を減らせば,世界で約51万人の循環器疾患死亡を減らすことができるとも推定された。過剰な食塩摂取への対応が全世界的な課題であることがあらためて示されたといえよう。
編集委員・磯 博康
目的
ナトリウム(Na)の摂取は血圧値を上げることが知られているが,Naの摂取量と心血管疾患死亡リスクとの関連は十分に検討されていない。そこで,Global Burden of Disease研究の栄養・慢性疾患専門家委員会(Nutrition and Chronic Diseases Expert Group: NUTRICODE)の収集したデータやメタ解析によって,世界の各地域のNa摂取量を明らかにし,また国・年齢・性別ごとにみたNa摂取量と血圧値,ならびに心血管疾患死亡リスクを含む死因別死亡リスクを検討するとともに,Na摂取量の基準と,基準以上の摂取による世界の心血管疾患死亡リスクへの寄与を評価した。
コホート
(1)世界の各地域におけるNa摂取量
2008年3月~2011年12月に実施されたNa摂取量に関するメタ解析pubmedに用いた,世界66か国における全国規模またはそれに準ずる205研究のデータ(世界の全成人の74.1%に相当)を年齢・性別ごとにあらためて収集し,階層ベイズモデルを用いて世界187か国における年齢・性別・調査年ごとのNaの平均摂取量を算出した。
205研究のうち,24時間蓄尿データを用いたものは142研究,食事調査による推算データを用いたものは91研究(両者を用いたものは28研究)であった。

(2)Na摂取量の抑制による血圧値への影響
コクラン共同計画の,Na摂取量の抑制による血圧値への影響を検討した2件のメタ解析pubmedpubmedに含められた計103試験(6970人)のランダム化比較試験データを用いて,Na摂取量と血圧との関連が線形かどうか,またその結果が年齢,人種,高血圧の有無などによって異なるかどうかを,降圧薬服用の影響も考慮して検討した。

(3)血圧値と心血管疾患死亡リスク
個人データに基づく2件の大規模メタ解析(Prospective Studies CollaborationpubmedならびにAsia Pacific Cohort Studies Collaboration[APCSC: 抄録へ])のデータ(99コホート138万人)を結合し,収縮期血圧値と心血管疾患死亡リスクとの関連を検討した。

(4)Na摂取量基準の設定
Na摂取量と心血管疾患死亡リスクとの関連を検討するために,これまでに発表されているデータに基づき,地域相関研究や臨床試験においてもっとも血圧値が低くなるNa摂取量や,コホート研究のメタ解析でもっとも疾患リスクが低くなるNa摂取量を調べるとともに,理論的可能性(theoretical feasibility)の観点から国ごとのもっとも低い平均Na摂取量も考慮し,最終的には主要な食事ガイドラインとの一貫性が保たれるNa摂取量基準を設定した。

(5)基準を超えるNa摂取に伴う心血管疾患死亡
Global Burden of Disease研究(2010)のデータを用いて,(4)で定めた基準を超えるNa摂取が心血管疾患死亡にどのくらい寄与しているかを検討した。
結 果
(1)世界各地域におけるナトリウム(Na)摂取量
2010年における世界のNa摂取量の平均は,1日あたり3.95 g(食塩10.0 gに相当)。国別にみると,もっとも少ない国で2.18 g(食塩5.5g相当),もっとも多い国で5.51 g(食塩14.0 g相当)であった。
世界保健機関(WHO)によるNaの推奨摂取量は2.0 gだが,平均摂取量がこれを超えていた国は187か国中181か国(世界の全成人の99.2%)であった。

(2)Na摂取量の抑制による血圧値への影響
各試験におけるNa摂取量の低下は,1日あたり平均2.28 g(最小0.53 g~最大6.56 g),対象者の平均年齢は47.4歳(13~73歳)。

一次解析において,Na摂取量が低下するほど血圧値が低くなる,線形の用量-反応関係がみとめられた(線形のP<0.001)。

次に逆分散法によるメタ回帰分析を行った結果,Naの摂取量を1日2.3 g減らすことにより,収縮期血圧(SBP)が3.82 mmHg低下することが示された(95%信頼区間3.08-4.55)。
年齢,人種,高血圧の有無ごとに検討を行うと,Na摂取量の抑制による血圧値の低下幅が大きかったサブグループは,若年者よりも高齢者,白人よりも黒人,また正常血圧者よりも高血圧者であった。例として,50歳の白人の正常血圧者がNa摂取量を1日あたり2.3 g減らした場合,SBPが3.74 mmHg(95%信頼区間2.29-5.18)低下すると考えられた。また,降圧薬服用者においてNa摂取量の抑制による血圧値の低下幅が小さくなるような傾向はみとめられなかった。

(3)血圧値と心血管疾患(CVD)死亡リスク
血圧値とCVD死亡リスクとのあいだには,正の対数線形の関連がみとめられた。SBP 115 mmHg以上の範囲では閾値はみとめられなかった。
年齢層ごとにみると,年齢が高くなるほど,血圧とCVD死亡リスクとの関連は小さくなっていた。

(4)Na摂取量基準の設定
以下のデータを総合的に考慮し,集団の平均Na摂取量基準を1日あたり2.0 g(±0.2 g)とした(食塩で5.1 gに相当)。

・地域相関研究: INTERSALTのデータより,血圧値が低く,かつ加齢に伴う血圧値上昇の度合いも小さいコホートのもっとも低い平均Na摂取量は,1日あたり0.614 gであった。
・大規模ランダム化比較試験: 検討されたNa摂取量のなかで,血圧値の低下が確認されたもっとも低い摂取量は1日あたり1.5 gであった。
・前向き観察研究: 検討されたNa摂取量のなかで,心血管疾患リスクの低下が確認されたもっとも低い摂取量は1日あたり1.8~2.4 gであった。また,胃癌のリスクがもっとも低くなるNa摂取量は1日あたり1.2 gであった。
・国別のNa摂取量のデータ: もっとも低いケニアで1日あたり1.5 gであった。
・主要な食事ガイドライン: 推奨摂取量の上限は,1日あたり1.2~2.4 gであった。

(5)基準を超えるNa摂取に伴うCVD死亡
2010年における,上記の基準(1日あたり2.0 g)を超えるNa摂取に伴うCVD死亡は,世界で165万人と推算された(95%信頼区間110万-222万)。すなわち,世界のすべてのCVD死亡の約10分の1(9.5%,95%信頼区間6.4-12.8),および世界の70歳未満の早期死亡の約5分の1(17.8%)が,2.0 g超のNa摂取によって生じていると考えられた。

2.0 g超のNa摂取に伴うCVD死亡165万人について,内訳や,年齢,国および9つの地域(オーストララシア/北米/中央アジアおよび中央・東ヨーロッパ/東・東南アジア/南米・カリブ諸島/北アフリカおよび中東/南アジア/南アフリカ/西ヨーロッパ)ごとに検討した結果は以下のとおり。
・内訳: 冠動脈疾患死亡が68万7000人(41.7%),脳卒中死亡が68万5000人(41.6%),その他のCVD死亡が27万6000人(16.7%)であった。東・東南アジアと南アフリカでは脳卒中死亡の占める割合が高く,それ以外の地域では冠動脈疾患死亡の占める割合が高かった。
・年齢: 早期死亡(70歳未満)が40.4%を占めていた。
・地域ごとの検討: Na摂取量がもっとも多かったのは中央アジアおよび中央・東ヨーロッパであった。全CVD死亡に占める,2.0 g超のNa摂取に伴うCVD死亡の寄与割合は,いずれの地域でも70歳未満で約10~23%,70歳以上で約5~10%と高く,とくに,中央アジアおよび中央・東ヨーロッパと,東・東南アジアで高くなっていた。
・国ごとの検討: 84.3%が低所得国または中所得国で生じていた。2.0 g超のNa摂取に伴うCVD死亡率がもっとも高かったのはジョージア(1967人/100万人・年,95%信頼区間1321-2647),もっとも低かったのはケニアで(4人/100万人・年,3-6),人口の多い上位30か国に限ってみると,もっとも高いのはウクライナ(1540人/100万人・年,1017-2099)であった。全CVD死亡に占める,2.0 g超のNa摂取に伴うCVD死亡の寄与割合がもっとも高かったのはモーリシャスで(27.4%,18.8-35.9),もっとも低かったのはケニアで(0.3%,0.2-0.4),人口の多い上位30か国に限ってみると,もっとも高いのは中国(15.3%,10.5-20.2)であった。

感度分析として,Na摂取量基準のカットオフ値を1.0 g(食塩2.54 gに相当)と低くした解析では,基準を超えるNa摂取に伴う2010年のCVD死亡は世界で230万人と推算され(95%信頼区間150万-307万),全CVD死亡に占める割合は約40%と推算された。
一方,カットオフ値を4.0 g(食塩10.1 gに相当)と逆に高くした解析では,基準を超えるNa摂取に伴う2010年のCVD死亡は世界で51万2901人と推算された(33万3710-70万4773)。これはすなわち,現在Na摂取量の比較的多い国において,世界の平均程度にまで摂取量を減らせば予防できる死亡である。


◇ 結論
これまでに発表された観察研究,臨床試験,メタ解析,各国の調査データなどを用いて,心血管疾患(CVD)死亡リスクに対するNa摂取の世界的な影響を検討した。その結果,2010年における1日2.0 g超のNa摂取に伴うCVD死亡は世界で165万人と推算され,全CVD死亡の約10分の1を占めると考えられた。このうち5分の4が低・中所得国で,また5分の2が70歳未満の若年者で生じていた。以上の結果は,国や地域間で大きく異なっていた。


監修: epi-c.jp編集委員 磯 博康

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