[疫学レクチャー] 第1回のお題: 疫学研究で「調整のしすぎ」ということはありませんか?

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揚げものの摂取量と冠動脈疾患との関連をみている研究ですが,揚げものといえば,カロリーが高いもの。総摂取エネルギーで調整してしまうと,その影響を過小評価してしまうことにはならないのでしょうか?
「疫学レクチャー」では,素朴な疑問を感じる・ひっかかる・解釈に迷う……といった論文をとりあげ,その読みかたについて編集委員の先生に解説していただきます。今回の解説は,上島弘嗣氏(滋賀医科大学 生活習慣病予防センター)です。
今回の文献
揚げものの摂取と冠動脈疾患リスク
Guallar-Castillón P, et al. Consumption of fried foods and risk of coronary heart disease: Spanish cohort of the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition study. BMJ. 2012; 344: e363. pubmed

目的 揚げもの(fried food*)の摂取量と,冠動脈疾患(CHD)発症および全死亡リスクとの関連を検討。(*いわゆる揚げもの[deep-fried food]のほかに,油で焼いた・炒めたもの[pan-fried food]も含まれる )
コホート European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition(EPIC)のスペインコホートの29~69歳の40757人を11年間追跡。
結果 対象者の67%が揚げものの際にオリーブオイルを使用。揚げものの摂取量(四分位)とCHD発症リスク,および全死亡リスクとの有意な関連はみとめられなかった(多変量調整: 調整に用いられた変数は,年齢,性別,地域,総摂取エネルギー,エタノール換算アルコール摂取量,教育歴,喫煙状況,仕事における身体活動状況,自宅での身体活動量,余暇の身体活動量,糖尿病既往,高脂血症既往,癌既往,経口避妊薬服用,閉経状況,ホルモン補充療法状況,果物の摂取量,ナッツ類の摂取量,乳製品の摂取量,揚げていない野菜・肉・魚の摂取量,BMI,腹囲,高血圧)。
結論 揚げものの際にオリーブオイルやヒマワリ油を用いる地中海の一国であるスペインにおいて,揚げものの摂取量は,冠動脈疾患発症リスク,全死亡リスクのいずれとも関連していなかった。

今回の疑問


以上の結果をみると,オリーブオイルやヒマワリ油を使った地中海風ならば,揚げものをいくらたくさん食べても,冠動脈疾患が増えることはないのかと解釈してしまいそうになります。

解析にあたっては,年齢や既往歴,食事をはじめとした生活習慣などに関する調査項目で調整が行われていますが,ここで疑問があります。いずれのモデルでも調整する因子として「総エネルギー摂取量」が入っているのです。

われわれは,揚げものを多くとることは「あぶら」を多くとることになり,それがエネルギーの過剰摂取を経て肥満,ひいては冠動脈疾患に結びつくのではないかと考えてしまいます。それなのに,総摂取エネルギーで調整をしてしまったら,揚げものの影響を過小評価してしまうことにはならないのでしょうか?

上島先生の解説

そもそも調整とは何か

まず,調整とは何かについて,あらためてお話ししましょう。 あるコホート研究において,高血圧と心血管疾患(CVD)発症との関係を調べたところ,当然,高血圧の人はCVD発症リスクが有意に高くなっていました。

しかし,この結果には年齢が影響している可能性があります。年齢が高いほど高血圧にもなりやすいわけですから,高血圧の人と一言でいっても,そのなかには高齢者が多く含まれている可能性が高いのです。「高血圧の人はCVDになりやすい」という結果が出ても,それは,実は「高齢の人はCVDになりやすい」ということを反映しているだけかもしれません。このことを交絡とよびます。

そこで,年齢の影響を除外するために行うのが調整です。具体的には,交絡因子(年齢)と曝露(高血圧)との関連を数式で定め,それによって,曝露とアウトカム(CVD)との関連を修正することをいいます。

調整をしても,常に「しきれていない可能性」があることに注意

ただし,調整を行ったからといって,交絡因子の影響を必ずしも適切に除外できるとは限りません。たとえば,数式を定めるときには線形回帰式がよく使われますが,女性における年齢とコレステロール値のように両者の関連が直線的ではない場合,調整に線形回帰を用いるのは不適切と考えられます。また,そもそものデータの質が悪ければ,調整された結果の信頼度も低くなってしまいます。

調整というのは,要は値を計算し直しているだけですから,どこまで真実を反映しているかや,ほんとうにきちんと調整できているのかどうかはわからない。場合によっては,余計な操作を加えてしまっているのかもしれないわけです。この点で,調整を行うより,交絡因子の値などで層別化して解析を行うほうが,真の関連を得やすいことが知られています。しかし,対象人数や発症数が少なければ層別化はできませんね。

このように,年齢などの交絡因子の影響は必ず考慮すべきことですが,その一方で,「調整したつもりでも,しきれていない」可能性が常にあることを忘れてはいけません。多くの場合,研究デザインや測定方法といった制限があるなかで,あくまで可能な範囲内で調整をしているにすぎないというのが現状だからです。

総摂取エネルギーで調整しなければ,いったい何をみているのかわからなくなってしまう

さて,今回の文献をみてみましょう。揚げものの話をしているのに,年齢やBMIといった既知の危険因子のほかにエネルギーまで調整したら,過調整になってしまうのではないかという質問でしたね。

では,もし総摂取エネルギーで調整しなかったら,どうでしょうか。

過調整という可能性も,もちろんあります。しかしこの論文の場合は,エネルギーで調整しなかったら,逆に「揚げものをよく食べる人ほど冠動脈疾患(CHD)リスクが低い」という結果が出て,誤ったメッセージになってしまったのではないかと思います。理由を説明しましょう。

単に揚げものの摂取量が高いということだけでみると,「揚げものが好きで,とくによく食べる人」だけでなく,「全体的によく食べる(=総摂取エネルギーが高い)人」もいますね。このため,食事全体に対する揚げものの割合,すなわち総摂取エネルギーあたりの揚げものの消費量を算出することで,総摂取エネルギーを「ならす」のです。これは,栄養疫学では必須の考え方です。

エネルギーで調整しないと,揚げものの摂取量が多いグループには,必然的に,量の多い食事を必要とする以下のような人たちも含まれることになります。
  ・ 若い人
  ・ 肉体労働者
  ・ 運動が好きな人

つまり,本来はCHDリスクに対する揚げものの影響をみたいのに,総摂取エネルギーを考慮しないと,いったい何をみているのかわからなくなってしまうのです。揚げものをよく食べるということが,運動量や若さ,元気さなどを反映する単なるマーカーになってしまう可能性があります。

前向きコホート研究でも,因果の逆転が隠されているかどうかはわからない

このように,揚げものをよくとっている人の正体はおもに若い人や元気な人であり,そのような人は当然,CHDを発症しにくいですから,総摂取エネルギーで調整しなければ,予想とは逆の結果が,むしろきれいに出てしまったと考えられるわけです。

この論文の結果は,実際には総摂取エネルギーなど複数の因子で調整されていますが,それでも若い人がCHDを発症しにくいという年齢の影響を除外しきれておらず,このために揚げものの摂取量と冠動脈疾患(死亡)のリスクとの関連が出なかった可能性もあります。

調整というのは大変難しい問題だということがわかっていただけたでしょうか。

一般に,前向きコホート研究は,断面研究とは異なり,危険因子とアウトカムの因果関係を判断することができる手法とされています。しかし,前向きコホート研究から得られた結果であっても,そこにいわゆる因果の逆転* が隠されているかどうかまでは判断できません。真の因果関係を明らかにするために,疫学者は調整をはじめとしたさまざまな工夫を行ってきましたが,交絡の影響をすべて取り除くことは不可能といってよいでしょう。

疫学の文献を読むと,かならず調整された値を目にすると思います。結果を解釈するときには,ぜひ以上のようなことにも注意してみてください。

* 因果の逆転
疫学研究において,原因と結果を逆にして解釈してしまうこと。
たとえば禁酒と死亡率の関係がある。アルコール摂取について,もともと飲まない人/禁酒した人/少量飲む人/中程度飲む人/多量飲む人のそれぞれを追跡すると,もっとも死亡率が高いのは「禁酒した人」で,その次にリスクが高いのが「多量飲む人」であった。この結果を,単純に「禁酒により死亡率が高くなった」と解釈してはいけない。禁酒という行為ではなく,禁酒に至った状況(病気などの理由により禁酒せざるをえなかった)が高い死亡率に関連していたと考えられるからである。



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