[編集委員が選ぶ注目文献] AEDが全国的に普及したことで院外心停止例の予後が改善(All-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster Management Agency)

ここでは,2010年2月~8月にかけて発表された循環器疫学文献のなかから編集委員が選んだ注目文献を,コメントもまじえて紹介する。

自動体外式除細動器(AED)が全国的に普及したことで,院外心停止例の救命率や除細動の実施率などが改善していることがわかりました。
この貴重なデータを生かして,今後,目撃者によるCPRがより多く行われるようになることを願っています。

堀 正二氏 (大阪府立成人病センター)

― 文献概要 ―

Kitamura T, et al.; for the Implementation Working Group for the All-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster Management Agency.
Nationwide public-access defibrillation in Japan.
N Engl J Med. 2010; 362: 994-1004.pubmed

目的
心臓突然死は先進国における主要な死因の1つとなっている。自動体外式除細動器(automated external defibrillator: AED)は,救命のために迅速かつ連続的に行うべき「救命の鎖」(119番など救急への早期通報→早期心肺蘇生→早期除細動→早期病院搬送)における重要な役割を果たすもので,これにより除細動までにかかる時間を短縮することが可能となる。AEDが公共の場に設置されるようになったことで,院外心停止例の生存率が改善したという報告はいくつかあるが,いずれも限られた地域ごと,または特定の条件のもとに検討されたものである。そこで,日本における公共AEDの全国的な普及が院外心停止例の生存率を改善したかどうかについて,院外心停止例を全国的に登録したAll-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster management Agency研究による検討を行った。
コホート
All-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster management Agency: ウツタイン様式により,日本全国の院外心停止例を登録した大規模前向き研究。
2005年1月1日~2007年12月31日における18歳以上の院外心停止例312319人のうち,心室細動に続いて起こった心原性の心停止と考えられ,目撃者のいる12631人を解析の対象とした。
結論
公共のAEDが全国的に普及したことで,AEDを用いた除細動の実施率,心室細動をともなう心原性院外心停止例の予後などに改善がみられた。公共のAEDによる除細動の重要性が裏付けられたといえる。

堀氏: 近年,公共の場への自動体外式除細動器(automated external defibrillator: AED)の設置が急速に進んでいます。院外心停止例に対して,救急隊の到着を待たず,目撃者(バイスタンダー)が電気的除細動を行うことが可能になりましたが,AEDの普及によって,実際に救命率が改善されているのかどうか,検証が必要です。これまで,地域単位での検討はいくつかあるものの,全国レベルでの検討はありませんでした。

そこで紹介したいのがこの文献です。日本全国の院外心停止例を登録した大規模前向き研究であるAll-Japan Utstein Registry of the Fire and Disaster Management Agencyにより,2005~2007年にかけてのAEDの普及状況と救命率などの変化について検討が行われました。スタディ名にもあるように,ウツタイン様式(地域間・国際間の比較を目的とした心停止例の記録様式のガイドライン)により統一した形式で記録されたデータを集計・分析しているため,非常に信頼度の高い結果です。

検討の結果,AEDが全国的に普及したことで,除細動の実施率や救命率などが有意に改善していることがわかりました。居住面積1 km2あたりの公共AED設置数は,2005~2007年のあいだに0.11台→0.97台と大きく増加しています。患者が倒れてから除細動または心肺蘇生を開始するまでの時間は,3.6分→2.9分に縮まりました。公共のAEDが増えたことで,目撃者が最寄りのAEDを取りに行き,戻ってきて除細動をかけるまでの時間が3分以内になっているということだと思います。このように迅速に除細動を行うことができれば,助かる見込みはかなり高くなります。
なお,興味深いと思ったのが目撃者と患者との関係です。今回のデータでは,倒れた人の半数で家族が一緒だったのですが,除細動のうち家族によるものは 10~19%程度にすぎませんでした。おそらく家族は気が動転してしまっていて,そばにいた家族以外の人がAEDによる除細動を行ったというケースが多かったのでしょう。

2007年には,ウツタイン大阪プロジェクトから,胸骨圧迫のみの蘇生法の効果は,mouth to mouthの人工呼吸をともなう心肺蘇生法に劣らないということも示されています(→抄録へ)。これらの貴重なデータを生かして,今後,目撃者によるCPRがより多く行われるようになることを願っています。

― ほかの編集委員からのコメント ―

上島 弘嗣氏 (滋賀医科大学生活習慣病予防センター) AEDの普及が進んできた今,どのような効果があったかということには,やはり非常に興味があります。総務省消防庁の搬送記録を利用し,全国規模での検討を行っている大変貴重なデータだと思います。高島循環器疾患発症登録研究でも,同じ方法でデータを収集しています(→研究紹介ページへ)。

寺本 民生氏 (帝京大学医学部内科) 救急というのは行政が担当するものなので,日本全国レベルでのウツタイン様式の導入など,組織全体での連携によってこのような成果が得られたのではないでしょうか。一方,健診の場合は,学校健診・職場健診・住民健診・特定健診などがあり,市町村が行うものだけではないため,なかなかデータをまとめることができません。この研究のように,統一した方法でデータを記録し,蓄積していくことができれば,わが国のデータももっと有効に活用できるのではないかと思うのですが。


― epi-c.jpのなかで関連するテーマの文献を読む ―




▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.