[学会報告・第17回日本動脈硬化教育フォーラム] 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では吹田スコアによる冠動脈疾患発症の絶対リスク評価を採用

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左:座長の松澤佑次氏、右:木下誠氏

2017年1月29日(日),第17回日本動脈硬化教育フォーラム(日本動脈硬化学会)が宮崎で開催された。

ここでは,特別講演「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017の概要」(座長: 住友病院・松澤佑次氏,演者: 帝京大学・木下誠氏)で発表された新しいガイドラインの概要やおもな改訂点について,包括的リスク評価の項目を中心に紹介する。


2017年版のおもな改訂点

 5年ぶりの改訂となる「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」(以降,2017年版)は,7月に開催される第49回日本動脈硬化学会総会(広島)で公開の予定。今回はそれに先立ち,ガイドラインを策定する動脈硬化診療・疫学委員会の委員長である木下氏が,2017年版の骨子を明らかにした。

 おもな改訂点は表1のとおりで,動脈硬化性疾患の危険因子としての脂質異常症の評価や,絶対リスクの評価をはじめとした一部の項目に,はじめてシステマティックレビューに基づくclinical question(CQ)形式での記載が導入された。

表1 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」のおもな改訂点
(1) clinical question(CQ)とシステマティックレビューの導入
導入された項目: 危険因子の評価(脂質異常症),絶対リスク評価,食事療法,薬物療法
(2) 絶対リスク評価方法の変更
(3) 動脈硬化危険因子の追加
(4) 高リスク病態の見直し
・二次予防の層別化
・小児を含めた家族性高コレステロール血症の管理の見直し
動脈硬化性疾患としての主要なターゲットは,とくに記載のないかぎり冠動脈疾患とした。

LDL-C直接測定法の妥当性は確認されたが,これまでのエビデンスとの一貫性で優るのはFriedewald式

 2017年版における包括的リスク評価の章では,危険因子のうち脂質異常症の評価について,CQ形式で表2のようなステートメントが記載される予定である。木下氏は,「システマティックレビューによる評価を行った結果,2012年版と大きく変わるようなところはなかったが,LDL-Cと脳卒中発症・死亡との関連については,あまりはっきりと示されなかった」と付け加えた。

  CQ: 冠動脈疾患の発症・死亡を予測するか CQ: 脳卒中の発症・死亡を予測するか
LDL-C 予測する(値の上昇) 脳梗塞に対しては正の,出血性脳卒中に対しては負の関係が示されているが,日本人において十分なエビデンスがあるとはいえない
総コレステロール 予測する(値の上昇) 予測する(値の上昇)
脳梗塞に対しては正の,出血性脳卒中に対しては負の関係が示されている
non-HDL-C 予測する(値の上昇) 関連がないという報告もある
HDL-C 予測する(値の低下) 脳梗塞の発症・死亡を予測する(値の低下)
トリグリセライド 空腹時・非空腹時にかかわらず,予測する(値の上昇) 脳梗塞の発症・死亡を予測する(値の上昇)
表2 日本人の脳・心血管疾患に対する脂質異常症の影響に関するシステマティックレビューの概要
CQ: clinical question

 なおLDL-C測定に関して,2012年版では「原則としてFriedewald式を用いる」とされていたが,2017年版では,直接法の試薬の性能が改善し,日常診療の範囲では妥当性が確認されたとの考えから「Friedewald式で算出するか,直接法で測定する」との記載に変わる。ただし,過去の大規模臨床試験などのエビデンスとの一貫性から,動脈硬化学会としては,Friedewald式で算出したLDL-C値のほうに若干の優位性があるという考えである。

 脂質異常症スクリーニングのための診断基準は,LDL-CおよびHDL-C,トリグリセライドのいずれについても2012年版と変わらないが,2017年版では,non-HDL-Cによる診断基準が新しく追加された。高non-HDL-C血症は170 mg/dL以上,境界域高non-HDL-C血症は150~169 mg/dLと,それぞれLDL-Cの基準より30 mg/dL高い値となっている。

 また2017年版では,動脈硬化性疾患の脂質異常症以外の危険因子として,末梢動脈疾患(下肢末梢動脈疾患,腹部大動脈瘤,および腎動脈狭窄),ならびに,その他の考慮すべき病態として高尿酸血症および睡眠時無呼吸症候群が追記された。

絶対リスク評価には吹田スコアを採用

 2017年版の包括的リスク評価では,2012年版から採用された絶対リスクに基づく評価方法が引き続き用いられる。2012年版ではNIPPON DATA80のリスク評価チャート(抄録へ)が用いられたが,今回,日本人における絶対リスク予測ツールについてあらためて検討が行われた(表3)。

 まず,LDL-CおよびHDL-Cの両方を評価に用いていること,ならびに,アウトカムとして死亡率ではなくイベント発症率を評価していることから,久山町研究のリスクスコア(抄録へ)および吹田スコア(抄録へ)が候補に選ばれた。アウトカムについてみると,吹田スコアでは冠動脈疾患に絞られているが,久山町研究のスコアでは,冠動脈イベントのほかに,脂質のみならず血圧も大きく寄与するイベントである脳卒中が含まれている。またLDL-Cの評価方法をみると,吹田スコアでは<100/100~139 /140~159/160~179/≧180 mg/dLの5つのカテゴリーを用いているのに対し,久山町研究のスコアでは140 mg/dL未満/以上の2つにとどまる。以上のことから,2017年版では絶対リスク評価に吹田スコアを用いることが決定された。

表3 国内のコホート研究に基づく動脈硬化性疾患の絶対リスク予測ツール(下線: 今回重視された項目)
コホート名 リスク評価方式 リスク評価期間 評価に用いられた危険因子 アウトカム
(予測対象となるイベント)
NIPPON DATA80
(冠動脈疾患)
リスクチャート 10年 (性別のテーブル)年齢,総コレステロール,収縮期血圧,喫煙,随時血糖 冠動脈疾患死亡
NIPPON DATA80
(全循環器疾患)
リスクチャート 10年 (性別のテーブル)年齢,総コレステロール,収縮期血圧,喫煙,随時血糖 全循環器疾患死亡(脳卒中含む)
久山町研究 スコアリングテーブル 10年 性別,年齢,LDL-CHDL-C,糖尿病,喫煙 心筋梗塞発症+心突然死+冠血行再建術発生+脳卒中発症
JMSコホート研究(心筋梗塞) リスクチャート 10年 (性別のテーブル)年齢,総コレステロール,喫煙(男性のみ),収縮期血圧,糖尿病(女性のみ) 心筋梗塞発症
JMSコホート研究(脳卒中) リスクチャート 10年 (性別のテーブル)年齢,収縮期血圧,喫煙,糖尿病 脳卒中発症
JALS-ECC スコアリングテーブル 5年 性別,年齢,総コレステロールまたはnon-HDL-C,HDL-C,高血圧(グレード1と2),喫煙,糖尿病 心筋梗塞発症
茨城県コホート ウェブサイト 5~15年 性別,年齢,体重,収縮期血圧,HDL-C,トリグリセライド,AST,血糖値(治療状況含む),採血条件,喫煙,飲酒 死因別死亡(脳卒中,癌,虚血性心疾患,循環器疾患,総死亡)
JPHC スコアリングテーブル 10年 年齢,性別,喫煙(男女別のスコア),BMI(25~30,30以上),血圧(降圧薬服用の有無別にスコア化),糖尿病 脳卒中発症
吹田研究 スコアリングテーブル 10年 年齢,性別,喫煙,糖尿病,血圧区分,総コレステロールまたはLDL-CHDL-C,慢性腎臓病 冠動脈疾患発症
JPHC(コホートII) スコアリングテーブル 10年 年齢,性別,喫煙,降圧薬服用,糖尿病,収縮期血圧,HDL-C,non-HDL-C(冠動脈疾患のみ) 冠動脈疾患発症+脳梗塞発症

冠動脈疾患発症の絶対リスク評価によって脂質管理目標を設定

 脂質管理目標設定のためのリスク層別のフローチャートはのとおり。前半は2012年版とほとんど同じだが,2017年版では,糖尿病,慢性腎臓病,非心原性脳梗塞,および末梢動脈疾患のいずれにも該当しない一次予防について,吹田スコアに基づく絶対リスク評価(10年間の冠動脈疾患発症率)が用いられることになる。

図 冠動脈疾患予防からみたLDL-C管理目標設定のための吹田スコアを用いたフローチャート
図

 この10年間の冠動脈疾患発症率(2%未満/2~8%/9%以上)の予測に用いられたスコアリングテーブルには,年齢,性別,喫煙,血圧,HDL-C,LDL-C,耐糖能異常,早発性冠動脈疾患家族歴の8つの危険因子が用いられるが,このなかには今回,学会で新たに付け加えた項目もあるなど,オリジナルの吹田スコアとは少し異なる。発症率の算出は煩雑になってしまうことから,学会は,危険因子の値を入力することで簡単に計算できるスマートフォン用アプリや,危険因子の保有数のみでリスク層別を行う簡易版フローチャートも公開する予定である。

 のフローチャートによる管理区分(低リスク/中リスク/高リスク)に基づいて脂質管理目標値が決定される。LDL-C,HDL-C,トリグリセライド,non-HDL-Cのいずれも,目標値そのものに2012年版からの変更はない。

 なお,二次予防でより厳格な管理が必要な病態(急性冠症候群,喫煙,糖尿病,慢性腎臓病など)での目標値に関して,木下氏は「エビデンスはまだ十分とはいえないものの,薬物療法の項の本文には,日本人の冠動脈プラークを観察した結果より,LDL-C 70 mg/dL未満とすることも妥当と考えられる……という文言も追記する予定」と補足した。

PCSK9阻害薬の長期投与に関する安全性は「まだ確認されていない」

 包括的リスク管理の章においても,食事療法と薬物療法の項目でシステマティックレビューに基づくCQ形式での記載が行われた。たとえば,「欧米におけるエビデンスを日本に取り入れることはできるか」「一次予防の高リスクに対するLDL-Cの管理目標値は120 mg/dL未満が妥当か」といった実践的なCQに答えるかたちで,エビデンスレベルや推奨レベルとともにステートメントが示される。

 2016年より使用可能となった新しい脂質異常症治療薬であるPCSK9(前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)阻害薬については,「適応と有効性は確立されているが,長期投与に関する安全性はまだ確認されていない」と記載される予定。



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