[編集委員が選ぶ注目文献] 野菜や果物を多くとる「質素型」の食事パターンは急性心筋梗塞リスクの低下と関連(INTERHEART)

ここでは,2008年10月~2009年3月にかけて発表された循環器疫学文献のなかから編集委員が選んだ注目文献を,コメントもまじえて紹介する。

疾患リスクには,人種差に反映される遺伝的因子と,生活習慣などの環境因子の両方が関与しています。
世界52か国にわたって行われた大規模な研究から,「人種にかかわらず食事の影響は大きい」ということ,そして「野菜や果物を多くとる食事がよい」というシンプルなメッセージが示されました。

堀 正二氏 (大阪府立成人病センター)

― 文献概要 ―

Iqbal R, et al., INTERHEART Study Investigators.
Dietary patterns and the risk of acute myocardial infarction in 52 countries: results of the INTERHEART study.
Circulation. 2008; 118: 1929-37.pubmed

目的
食事は多くの栄養素からなっている。そのなかには予防的なものも有害なものも含まれ,さらに複数の栄養素の相互作用も考えられるなど,特定の栄養素と疾患との関連は非常に複雑である。また,食習慣は世界の各地域で大きく異なっている。そこで,国・文化を問わずに実践できるようなシンプルな食事指導への応用も視野に入れて,複数の食品を含む「食事パターン」に着目し,大規模な国際症例対照研究により急性心筋梗塞(AMI)との関連を検討した。
コホート
INTERHEART (1999年2月~2003年3月に世界52か国262施設においてAMI発症例12,461人とその対照者14,637人を登録した症例対照研究) 参加者のうち,狭心症,糖尿病,高血圧,高脂血症のいずれの既往もないAMI発症例5,761人および年齢・性別をマッチさせた対照者10,646人。
結論
急性心筋梗塞(AMI: acute myocardial infarction)発症者と非発症者(対照者)を登録した大規模な症例対照研究において,食事パターンとAMIとの関連について検討した。その結果,野菜や果物を多くとる「質素型」の食事パターンはAMIリスク低下と関連していた。「西洋型」はAMIリスクと弱い正の関連を示し,「東洋型」では関連は見られなかった。AMIリスクのうち30%は食事のリスクスコアの上昇により説明された。AMIの予防のためには,野菜や果物を多く摂取し,揚げ物や塩分・スナック類は控えることが大切である。

堀氏: Framingham Heart Studyのような前向きコホート研究はたいへん意義のあるものですが,特定のテーマについて,人種差や文化の違いを考慮しながら比較・検討しようとすると,やはり世界規模のデータが必要です。とはいえ,目的や手法を統一して新しい疫学研究を一から始めるとなると,時間もお金もかかります。そこで今回は,大規模な国際標準化症例対照研究であるINTERHEART研究を紹介したいと思います。

症例対照研究(case-control study)とは,ある疾患の患者集団(case)と,その疾患に罹患していない人の集団(control)を設定し,過去にさかのぼって疾患の原因や危険因子を探索する研究方法です。INTERHEARTでは,急性心筋梗塞(AMI)患者と対照を登録し,AMIの危険因子を明らかにすることを目的としています。アジア,ヨーロッパ,中東,アフリカ,オーストラリア,南北アメリカのすべてをカバーする52か国が参加している非常に大規模な試みです。日本からも約200例が参加しています。

実は,日本人患者の登録には我々の施設が協力したのですが,調査項目の多さ,対照群の設定など,なかなか大変でした。また,開始当初はまだスポンサーがなく,研究期間中も継続して資金集めが行われていたようです。そうした状況からでも研究を行う,そのガッツに感銘を受けたことも,この文献を選んだ理由のひとつです。

結果として,「西洋型」では,一部にU字型の関連もみられましたが,やはり摂取量が多ければAMIのリスクが高くなりました。「東洋型」では摂取量とは関連がなく,「質素型」はAMIのリスクと有意な負の関連を示していました。

ある疾患のリスクには,血圧やコレステロールなどのような環境因子と,人種差のような遺伝的因子の両方が関与しています。今回の結果は,さまざまな人種の患者が含まれる多様なINTERHEARTの集団においても,食事パターンとAMIリスクが関連することを示しました。よりわかりやすく言うなら,「人種にかかわらず,食事の影響は大きい」ということです。その具体的な内容は,野菜や果物を多くとる食事がよいというシンプルなメッセージでした。

― ほかの編集委員からのコメント ―

大橋 靖雄氏 (東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻生物統計学) 今回のような「食事パターン」での分析は,最近の流行ですね。日本でも,食事パターンによる分析をやってみようという動きがあります。JALS(日本動脈硬化縦断研究)では,8万人分の詳細な食事のデータを収集しており,そこからパターン分析も行う予定です。食事はいろいろな変数の影響を受けるので非常にやっかいなのですが,解析の方法を工夫しておもしろい結果が得られればと思っています。
桑島 巌氏 (東京都健康長寿医療センター) 血圧の面からも,うなずける結果です。野菜や果物にはカリウムが多く含まれており,ナトリウムを排出し血圧を下げる働きがあるからです。また,日本人の食事の問題点は,やはり塩分でしょう。今回の結果は食事パターンと急性心筋梗塞との関連をみたものですが,脳卒中についてはどうか,とくに塩分の高い日本人の食事パターンと関連しているのかということに大変興味があります。
寺本 民生氏 (帝京大学医学部内科) 食事の調査というのは,国や文化の違いがあったり,主観的な報告に頼らざるをえなかったりと,非常に難しいですね。これまでにも多くの疫学研究や介入研究が行われましたが,はっきりした結果を出すためには,交絡因子の問題など,研究や解析の方法にかなりの工夫が必要という印象です。しかし,このような「食のエビデンス」は,これからますます重要になっていくと思います。

― epi-c.jpのなかで関連するテーマの文献を読む ―




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