[学会報告・日本動脈硬化学会2012] 久山町研究,KOBE Study,SESSA,滋賀国保コホート研究,吹田研究・NADESICO研究

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会場写真


第44回日本動脈硬化学会総会・学術集会は, 2012年7月19日(木)~20日(金)の2日間,福岡にて開催された。ここでは,シンポジウム2「生活習慣病の疫学研究から動脈硬化を予防する」,シンポジウム11「心・血管病の性差」,およびポスターセッションで発表された疫学研究の一部を紹介する。


- 目 次 - * タイトルをクリックすると,各項目にジャンプします
<シンポジウム11「心・血管病の性差」より>
・地域住民における心血管病リスクの性差(久山町研究)

動脈硬化性疾患の臨床研究と都市部疫学研究 (吹田研究,NADESICO研究)

発表者: 宮本 恵宏 氏 (国立循環器病研究センター 予防健診部)
宮本 恵宏 氏 宮本 恵宏氏のコメント
日本の都市部で生活する方を対象としたコホート研究や,病院での新たな画像検査を用いた研究により,保健指導や臨床の現場で役に立つエビデンスを出していきたいと考えています。

吹田研究からの知見
吹田研究は,都市部の循環器疾患発症の状況および危険因子の検証を目的として,大阪府に隣接した吹田市住民から無作為に抽出した対象者を追跡する前向きコホート研究である(吹田研究へ)。
吹田研究における動脈硬化危険因子に関するおもな知見は以下のとおり。

  • 高血圧: 至適血圧に比した正常血圧+正常高値血圧の循環器疾患発症への寄与度は男性20.5%,女性8.4%であり,血圧が正常範囲内であっても生活習慣の改善などを考慮するべきと考えられた(抄録へ)。
  • 糖尿病: 糖尿病(HbA1c≧6.5%[NGSP値])の人では,非糖尿病に比して全循環器疾患の発症リスクが約3倍,心筋梗塞は約2.5倍,脳卒中は3倍以上と顕著に高かった(抄録へ)。
  • 脂質異常症: 性別を問わず,LDL-C高値およびnon-HDL-C高値はいずれも心筋梗塞発症リスクと有意に関連したが,虚血性脳卒中とは関連しなかった(抄録へ)。
  • 喫煙とメタボリックシンドローム(MetS): 喫煙とMetSはいずれも循環器疾患発症の危険因子であり,これらをあわせもつ場合の人口寄与危険割合は男性11.9%,女性7.1%であった(抄録へ)。なお,7月13日に改正された健康日本21の「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002eyv5.html)では,はじめて喫煙率低下に関する具体的な目標が設けられ(目標値: 2022年までに12%),禁煙指導の重要性がさらに強調されたといえる。

NADESICO Studyからの知見
「動脈硬化性疾患の危険因子の性差と予防に関するコホート研究(Nationwide Gender-based Atherosclerosis Determinants Estimation and Ischemic Cardiovascular Disease Prospective Cohort: NADESICO Study)」は,2008年に開始された多施設共同の観察研究で,虚血性心疾患の疑いにより冠動脈造影CTを受けた患者を対象に,冠危険因子や冠動脈壁の状態と,心血管疾患の発症・死亡との関連を調べることをおもな目的としている。今回は,冠危険因子と冠動脈石灰化および狭窄との関連を検討した横断的解析の結果が紹介された。

まず,性別・年齢層ごとの冠動脈石灰化(Agatoston score>0)および冠動脈狭窄(狭窄率≧50%)の有病率を調べると,いずれも性別を問わず,年齢とともに増加していた。とくに女性では増加度が大きく,70歳代までにほぼ男性の値に追いついてしまう状況であった。
既知の冠危険因子(肥満,高血圧,糖尿病,脂質異常症,現在の喫煙)と冠動脈の石灰化,高度な石灰化(Agatston score>300),および狭窄との関連をそれぞれ検討した結果,いずれについても,性別を問わず肥満,高血圧,糖尿病,脂質異常症の4つが有意に関連していた。喫煙は,女性でのみ有意な関連を示した。さらに多変量解析を行うと,性別を問わず,年齢,高血圧および糖尿病が冠動脈の高度石灰化と独立に関連していた。冠危険因子の重積について検討すると,男女とも,因子の保有数が多いほど冠動脈の高度石灰化および狭窄のリスクが有意に増加しており,この結果はとくに女性で顕著であった。

結論

  • 吹田研究から,高血圧,糖尿病,脂質異常症,メタボリックシンドロームや喫煙が心血管疾患の危険因子であることが示された。
  • NADESICO研究から,(1)女性の冠動脈石灰化および狭窄の有病率は年齢とともに高くなり,最終的には男性の有病率にほぼ到達してしまうこと,(2)男女とも高血圧と糖尿病は冠動脈石灰化と関連しており,女性ではとくに喫煙,およびリスクの重積にも注意が必要であることなどが示された。冠動脈石灰化など,潜在的な動脈硬化の指標を用いた検討により,今後,動脈硬化の性差について,より詳細に検討することが可能と考えられる。

NIPPON DATA 80リスクチャートを用いた冠動脈死亡絶対危険度と頸部動脈硬化所見との関連の検討 (SESSA研究)

発表者: 門田 文 氏 (滋賀医科大学 社会医学講座 公衆衛生学部門)
門田 文 氏 門田 文氏のコメント
生活習慣病の予防・改善を継続すること,支援することの難しさを痛感しています。心筋梗塞のリスクや現在の動脈硬化の程度を予想することが,療養の動機や励みにつながればと思います。

背景・目的
動脈硬化性疾患のリスクの正確な評価のためには,複数のリスクを考慮した包括的なアプローチが必要である。NIPPON DATA80のデータをもとに作成された「冠動脈疾患死亡リスクチャート」はそのために有用なツールの一つであり,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』では脂質管理目標設定のフローチャートにも用いられた。そこで,日本人一般地域住民男性を対象として,
 (1)このリスクチャートを用いて評価した冠動脈疾患死亡の絶対リスク
 (2)ガイドライン2012年版における脂質管理目標設定のためのカテゴリー区分
のそれぞれに対応する潜在的な動脈硬化の程度を,頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)を用いて検討した。

コホート・手法
滋賀動脈硬化疫学研究(Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis: SESSA)。滋賀県草津市在住の一般地域住民男性から年齢層ごとに無作為抽出され,2006~2008年のベースライン健診を受診した循環器疾患既往のない40~74歳の871人(断面解析)。
頸動脈超音波検査により,総頸動脈(CCA),総頸動脈球部(bulb),内頸動脈(ICA)のIMT値を測定し,CCA~ICAのプラークの有無も評価した。

結果
(1)冠動脈疾患死亡の絶対リスクと頸動脈硬化の進展度
NIPPON DATA80のリスクチャートを用いて推定した冠動脈疾患死亡の絶対リスクにより,対象者を0.5%未満/0.5%以上2.0%未満/2.0%以上5.0%未満/5.0%以上の4つのカテゴリーに分類した。
IMT値(CCA),および平均IMT値(CCA)>1 mmの人の割合は,リスクが高いカテゴリーほど有意に高くなっていた(いずれもP for trend<0.001)。この結果は,IMT値(ICA),IMT値(bulb)を用いても同様であった。頸動脈プラークの有所見率,およびプラークの数も,リスクが高いカテゴリーほど有意に高くなっていた(いずれもP for trend<0.001)。

(2)ガイドラインの脂質管理区分と頸動脈硬化の進展度
『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』のフローチャートに基づき,対象者を脂質管理目標設定のためのカテゴリーI/II/IIIに分類した。
IMT値(CCA),および平均IMT値>1 mmの人の割合は,リスクが高いカテゴリーほど有意に高くなっていた(いずれもP for trend<0.001)。頸動脈プラークの有所見率,およびプラークの数も,リスクが高いカテゴリーほど有意に高くなっていた(いずれもP<0.001)。

結論

  • NIPPON DATA80(ベースライン: 1980年)のリスクチャートにより評価した冠動脈疾患死亡の絶対リスクは,2006~2008年の調査においても,一般地域住民男性の頸動脈硬化進展度と一致していた。このことから,リスクチャートを用いた絶対リスク評価により,頸動脈硬化の進展度も推定することが可能と考えられた。
  • ガイドラインの脂質管理目標設定のためのカテゴリー区分は,一般地域住民男性における頸動脈硬化の進展度と一致していた。このことから,高リスクであるカテゴリーIIIに分類された人については,頸動脈硬化も進展している可能性が高いことを念頭に,包括的な管理を行う必要がある。
  • 以上の結果から,わが国における動脈硬化性疾患の予防のためには,動脈硬化性疾患予防ガイドラインやNIPPON DATA80リスクチャートのように,複数のリスクを考慮した包括的な評価・管理を行う必要があると考えられる。

動脈硬化性疾患危険因子の医療費へのインパクト(滋賀国保コホート研究)

発表者: 中村 幸志 氏 (金沢医科大学 公衆衛生学)
中村 幸志  氏 中村 幸志氏のコメント
今回の結果は,医療費の適正化も視野に入れながら動脈硬化性疾患危険因子の対策に従事されている方々にぜひ注目していただきたいエビデンスです。また,特定健診・特定保健指導における医療費評価のモデルとなりうる研究だと考えます。

背景・目的
2008年に始まった特定健診・特定保健指導制度には,生活習慣病の予防を通じ,増え続ける医療費を抑えるという目的もある。制度の導入に伴って医療費への関心も高まっているが,これまで,一般住民を対象に,生活習慣病の危険因子と医療費との関連を前向きに検討したコホート研究は少ない。滋賀国保コホート研究は,医療費を上昇させる要因を明らかにするために,滋賀県国民健康保険団体連合会と滋賀医科大学の共同研究として立ち上げられた。
この研究の目的は,生活習慣や健診所見と将来の医療費との関連を明らかにし,危険因子の適切な管理によって医療費をどのくらい削減できるかについて検討することである。

コホート・手法
対象は,滋賀県の8町村に在住していた国民健康保険(国保)の加入者で,1989~91年に老人保健法による基本健康診査(健診)を受診した40~69歳の一般住民4535人(男性1939人,女性2596人)。
健診のデータをベースラインデータとして用いた。医療費については,国保のレセプトを用い,健診の翌年から10年間の保険点数より算出した。個人で追跡期間(=国保加入期間)が異なるという問題があることから,期間内の国保資格喪失(死亡,転出など)の有無を調べ,「追跡期間中の1か月あたりの平均医療費」をアウトカムとした。

結果
◇ 動脈硬化性疾患の危険因子の有無と医療費(個人の視点からの解析)

  • 血圧: 降圧薬非服用者集団で,血圧カテゴリーと医療費は,正の関連を示した(交絡因子を調整)。血圧と全死亡リスクも同様の関連を示していたことから,「血圧が高い」と,高血圧自体の治療のみならず,死亡に結びつくような重篤なイベント発生をともなって医療費が上昇したと考えられた。
  • 肥満: BMIカテゴリーと医療費は,Jカーブ型の関連を示した(交絡因子を調整)。BMIと全死亡リスクとの関連も同様のJカーブ型の関連を示していたことから,「BMIが高い」と,死亡に結びつくような重篤なイベント発生をともなって医療費が上昇したと考えられた。
  • 危険因子の重積: 3つの危険因子(高血圧,高コレステロール血症,糖尿病)の保有数が増えるほど医療費が高くなる傾向がみられ,肥満を合併した場合はさらに医療費が上昇した。また,高血圧と喫煙をあわせもつ場合は,いずれかを単独でもつ場合にくらべ,医療費がより高かった。
◇ 集団の視点からの解析
医療費の問題は国民や保険団体といった集団のレベルで議論されるため,個人だけでなく集団の視点からの評価も必要である。そこで,人口寄与危険割合の概念を応用し,正常血圧の人に比した,高血圧前症および高血圧の人の「集団としての過剰医療費」を算出した。その結果,過剰医療費が医療費全体に占める割合は,高血圧前症が9.5%,ステージ1高血圧が6.0%,ステージ2高血圧が8.2%と大きな差はなく,どのカテゴリーからも同等の過剰医療費が発生していると考えられた。
危険因子の重積についても同様に検討すると,医療費全体に占める過剰医療費の割合は,「非肥満+危険因子1個」でもっとも大きく,続いて「非肥満+危険因子2個以上」,「肥満+危険因子2~3個」,「肥満+危険因子0個」,「肥満+危険因子1個」の順となった。すなわち,集団レベルでみると,非肥満で危険因子も1つしか持っていないような層から発生する過剰医療費が多いことが示唆された。

結論
個人レベルでは,危険因子の数が多い人や重症な人ほど,医療費が高くなっていた。一方,集団の視点からみると,危険因子の数が少ない人や程度が軽い人は人数が多いことから,これらの層から発生する医療費のほうがむしろ多くなると考えられた。このように,医療費適正化のためには,高額の医療費を使うと考えられる個人にのみ介入するハイリスク・アプローチだけでなく,軽症の人や危険因子をもたない人も含めた集団全体を対象とするポピュレーション・アプローチの考え方が必要である。

地域住民における心血管病リスクの性差(久山町研究)

発表者: 土井 康文 氏 (九州大学大学院医学研究院 環境医学分野)
土井 康文  氏 土井 康文氏のコメント
わが国の地域住民では,虚血性心疾患の発症率は明らかに男性で高く,性差が観察されています。この性差の原因の一部は,女性ホルモンがコレステロール代謝に影響を及ぼすためであると考えられます。「80歳以上の高齢者および糖尿病患者では,虚血性心疾患発症率の男女差がなくなる」ということも,ぜひ留意していただきたいと思います。

心血管疾患とその危険因子の性差
久山町研究における心血管疾患発症率を第3集団(1988年)の男女で比較すると,虚血性心疾患(IHD)の発症率は男性で女性の約2倍と有意に高かった。脳卒中発症率も男性で女性の約1.3倍と有意に高かったが,病型別にみると,脳出血およびくも膜下出血では有意差はなく,脳梗塞でのみ性差がみとめられた(抄録へ)。したがって,心血管疾患発症率の性差をもたらしているのはおもにIHDや脳梗塞,すなわち動脈硬化性の疾患であると考えられる。(久山町研究へ

第3集団において,性別が多変量調整後もIHDおよび脳梗塞の危険因子となるかどうかを検討したところ,IHDについては性別(男性)が独立した危険因子となったが,脳梗塞ではそうではなかった。さらに,第1集団(1961年)のIHDについて同様の検討を行うと,性別(男性)は独立した危険因子とはならなかった。この背景には,当時の高コレステロール血症(総コレステロール≧220 mg/dL)有病率が,男性3%,女性7%と現在にくらべて顕著に低かった(抄録へ)という状況があり,性差と動脈硬化性疾患との関連は,環境因子などの関与によっても変化していくことが示唆された。
なお,「性差をなくしてしまう疾患」の一つに糖尿病がある。第3集団において,耐糖能の状態ごとに男女のIHD発症率を比較したところ,耐糖能正常,空腹時血糖異常,および耐糖能異常の人では,男性にくらべて女性の発症率が顕著に低かったが,糖尿病になると,この性差は消失した(抄録へ:準備中)。糖尿病の存在により,いわば「女性のメリット」が打ち消されてしまうことになり,糖尿病の女性ではとくに厳重な管理が必要であるといえる。

虚血性心疾患の性差の背景にあるもの
第3集団において,年齢層ごとに男女のIHD発症率を比較すると,40~70歳代では男性の発症率のほうが有意に高いものの,80歳代になると女性の発症率が男性に追いついてしまう。この結果には血清脂質濃度の変化が影響していると考えられることから,第3集団を対象とし,とくに閉経(50歳代前後)に伴う変化に着目して血清脂質や関連因子の性差をみた結果は以下のとおりであった。

  • LDL-C: 40歳代まではあまり差がないが,50~80歳代では女性のほうが有意に高かった。
  • トリグリセリド,HDL-C: 50歳代まで男性のほうが有意に高いが,60~80歳代では性差は消失した。
  • non-HDL-C: 40歳代までは女性のほうが低いが,50~80歳代では女性のほうが有意に高くなっていた。
  • 腹囲: 50歳代前半までは男性のほうが有意に高いが,50代後半を境に,逆に女性のほうが高い傾向となっていた。
このように,性差の状況が大きく変化するタイミングには,因子によって閉経直後の50歳代から60歳代までと幅があった。これは,女性では閉経後にエストロゲンの抗動脈硬化作用が段階的に消失し,脂質代謝や体脂肪分布の変化が徐々に起こるためと考えられる。

結論

  • 久山町研究第3集団(1988年)において,性別(男性)は虚血性心疾患の独立した危険因子であることが示されたが,脳梗塞に対しては有意な危険因子とはならなかった。
  • 80歳代までに女性の虚血性心疾患発症率が男性に追いついてしまうのは,閉経に伴うエストロゲン減少によって脂質代謝や体脂肪の分布に変化が生じるためであると考えられる。
  • 糖尿病の女性は「女性のメリット」を失い,男性と同等の虚血性心疾患リスクを有する。


[KOBE Study] 心臓足首血管指数(CAVI)との関連はLDL-CよりhsCRPのほうが強い

発表者: 兵庫医科大学・東山 綾 氏 (7月20日(金))
  目的: LDL-C値と高感度CRP(hsCRP)値のどちらが,心臓足首血管指数(cardio-ankle vascular index: CAVI)により評価した動脈硬化の進展とよりよく関連するかを検討。
  コホート・手法: KOBE Studyのベースライン健診受診者のうち,CAVI測定に同意した40~74歳の386人(断面解析)。
  結果: 交絡因子を調整した重回帰分析において,男女ともに,LDL-C値にくらべてhsCRP値のほうがCAVI値との強い関連を示した。また,LDL-C値,hsCRP値の中央値(それぞれ127 mg/dL,0.27 mg/L)以上/未満で分けた計4群でCAVI値を比較すると,hsCRP高値を有する群ではLDL-C値にかかわらずCAVI値が高かった。また,CAVI値がもっとも高いのは,LDL-C高値とhsCRP高値をあわせもつ群であった。
東山 綾 氏 東山 綾氏のコメント
LDL-Cが循環器疾患の危険因子であることは明らかですが,欧米において,LDL-C値に問題のない人からも多数の冠動脈疾患が発症することや,LDL-C値は要治療域ではないもののhsCRP値が高いという人にスタチンを投与することにより,循環器疾患の発症リスクが低下することが報告されています。本研究により,KOBE Studyの対象者のように血圧,脂質,血糖という古典的な危険因子にほとんど問題のない日本人一般集団において,hsCRPが動脈硬化のリスクを判定する一指標になる可能性が示されました。CRP値が高い場合,まず炎症性疾患など従来から考えられている原疾患の除外・鑑別が重要であることはいうまでもありませんが,日常診療で「古典的な循環器疾患危険因子からみると低リスクだが,動脈硬化に注意すべき人」をスクリーニングする一助になると考えます。本研究ではCRPのカットオフ値などは検討できていませんが,今後も対象者の人数を増やして同様の研究を継続する予定であり,そこでより詳細な検討を行いたいと思います。
文献情報文献情報 Higashiyama A, et al. Does High-Sensitivity C-Reactive Protein or Low-Density Lipoprotein Cholesterol Show a Stronger Relationship with the Cardio-Ankle Vascular Index in Healthy Community Dwellers?: the KOBE Study. J Atheroscler Thromb. 2012; 19: 1027-34. pubmed


[SESSA] ガイドライン2012年版の絶対リスク評価は,一般住民男性の潜在性動脈硬化の進展度と一致

発表者: 滋賀医科大学・藤吉 朗 氏 (7月19日(木))
  目的: 潜在性動脈硬化の定量的指標である冠動脈石灰化(coronary artery calcium: CAC)と,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』(ガイドライン2012)における冠動脈疾患(CHD)死亡の絶対リスクおよび脂質管理目標設定のためのカテゴリーとの関連を検討。
  コホート・手法: 滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA)。滋賀県草津市住民より無作為に抽出され,ベースライン調査(2005~2008年)を受診した40~74歳の男性のうち,脳卒中・CHD既往のない903人(横断研究)。 ガイドライン2012に従い,NIPPON DATA80のリスクチャートを用いて,対象者を「10年間のCHD死亡の絶対リスクが0.5%未満/0.5~1.9%/2.0%以上/2.0%以上相当(糖尿病,慢性腎臓病,末梢動脈疾患のいずれかあり)」の4群に分類し,各群のCACの有病率を比較した。また,ガイドライン2012の「脂質管理目標設定のためのフローチャート」による3カテゴリー(I/II/III)を用いた解析も行った。
  結果: CHD死亡の絶対リスクが高いほど,CAC有病者(Agatston score≧10)や,そのなかでもさらに高値の人(Agatston score≧100)の割合が高くなっていた。この結果は,絶対リスクの代わりに脂質管理目標設定のための3カテゴリーを用いた解析でも同様であった。以上より,ガイドライン2012が提示した絶対リスク評価,および脂質管理目標設定のためのカテゴリー区分が,現在の一般住民男性における動脈硬化進展度と一致していることが示された。
藤吉 朗 氏 藤吉 朗氏のコメント
CTでみた冠動脈石灰化(CAC)は,冠動脈における粥状硬化の指標として,また冠動脈疾患の予測因子として,近年その評価が高まっています。今回の検討で,『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』(ガイドライン2012)が提示する10年間の冠動脈疾患死亡の推定絶対リスク,およびカテゴリーが上昇するほど,冠動脈粥状硬化も進展していることが示されました。本研究結果は,ガイドライン2012が提唱する「危険因子の包括的リスク評価とその管理」の重要性を支持する根拠のひとつになると考えます。


[SESSA] 頸動脈硬化と冠動脈硬化は互いに段階的な関連を示した

発表者: 滋賀医科大学・久松 隆史 氏 (7月19日(木))
  目的: 脳卒中の多い日本人において,冠動脈硬化と頸動脈硬化との関連を検討。
  コホート・手法: 滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA)。滋賀県草津市住民より無作為に抽出された40~79歳の男性993人(断面解析)。
  結果: 頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)が高い四分位ほど,また頸動脈プラークの数が多いほど,冠動脈石灰化の度合いを表すAgatston scoreが有意に高かった。この結果は,顕著な冠動脈石灰化(Agatston score≧100)の割合についてみても同様であった。
久松 隆史 氏 久松 隆史氏のコメント
今回の結果から,強い頸動脈硬化の所見がある場合,冠動脈の動脈硬化も同時に進展している可能性があることが示されました。臨床では,プライマリケアでも可能,かつ非侵襲的な頸動脈エコー検査をまず行い,そこで頸動脈硬化がみられた場合に,CTなど冠動脈のほうの精査も考慮していただくのがよいと思います。また,IMTについては総頸動脈(CCA),総頸動脈球部(bulb),内頸動脈(ICA)の4つの部位で測定を行いました。今回はいずれを用いても同様の結果が得られましたが,これらの臨床的な意義が異なるかどうかはまだ明らかになっていません。SESSAでは今後,追跡データを用いた縦断的な解析も行う予定ですので,そこで検討したいと考えています。


[吹田研究] LDL-C高値と高血圧の合併による冠動脈疾患,脳卒中リスクへの影響

発表者: 大阪医科大学・月野木 ルミ 氏 (7月20日(金))
  目的: 血圧とLDL-Cの組み合わせによる冠動脈疾患および脳卒中発症リスクへの影響を検討。
  コホート・手法: 吹田研究の30~79歳の5151人を13.1年間追跡。LDL-C高値はFriedewaldの式によるLDL-C値≧140 mg/dLとし,血圧については,正常血圧(120 / 80 mmHg未満),前高血圧(120~139 / 80~89 mmHg),高血圧(140 / 90 mmHg以上または降圧薬服用)に分類した(吹田研究へ)。
  結果: 冠動脈疾患についてみると,男女とも,LDL-C高値の有無を問わず,血圧値が高くなるほど発症リスクが有意に増加しており,LDL-C高値と高血圧をあわせもつとさらにリスクが高くなっていた。脳卒中については,男女とも血圧値が高くなるほど発症リスクが有意に増加していたが,LDL-C高値の合併によるリスクの有意な増加はみとめられず,血圧の影響が大きいことが示唆された。
月野木 ルミ氏 月野木 ルミ氏のコメント
これまで,アジア人一般集団において,LDL-Cと血圧の組み合わせが循環器疾患発症リスクにどのように影響を与えるのかについて検討した研究はありません。本研究結果より,脂質異常症を有する場合,前高血圧の段階から冠動脈疾患対策を講じる必要があることが示唆されました。今後,脂質異常症を合併した高血圧患者に対する循環器疾患の一次予防を考えるうえで,今回の結果は貴重な資料になると考えています。




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