[編集委員が選ぶ注目文献] non-HDL-C,総コレステロールを用いた急性心筋梗塞発症リスクスコアを作成(JALS)

ここでは,2010年2月~8月にかけて発表された循環器疫学文献のなかから編集委員が選んだ注目文献を,コメントもまじえて紹介する。

得られた結果からのメッセージは,「欧米にくらべて心筋梗塞の罹患率が低い日本人においても,総コレステロール値が上がれば心筋梗塞のリスクは連続的に高くなる」ということです。
フラミンガム研究からのメッセージと同じです。

上島 弘嗣氏 (滋賀医科大学生活習慣病予防センター)

― 文献概要 ―

Tanabe N, et al.; The Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study Group.
Serum Total and Non-High-Density Lipoprotein Cholesterol and the Risk Prediction of Cardiovascular Events.
Circ J. 2010; 74: 1346-56.pubmed

目的
non-HDL-Cは心血管疾患の予測因子として有用であるとされており,その予測能はLDL-Cと同等かそれ以上であるとの報告があるが,総コレステロールとの比較についてはデータが不十分であった。そこで,10の前向きコホート研究の7.6年間の追跡データを用いたメタ解析により,non-HDL-Cおよび総コレステロールと心血管疾患発症リスクとの関連を検討した。さらにこの解析結果を用いて,non-HDL-Cまたは総コレステロールとその他の危険因子の保有状況により,5年間の急性心筋梗塞発症リスクを予測することのできるリスクスコアシステムを作成した。
コホート
JALS 0次研究(JALS-ECC: JALS-existing cohorts combine)に参加した21コホートの66,691人のうち,ベースラインの総コレステロール,HDL-C,血圧,身長,体重,喫煙,糖尿病既往に関するデータに不備がなく,かつ急性心筋梗塞(AMI)および脳卒中の各病型に関する追跡データを有するコホートを対象とした。
平均追跡期間は7.6年間。
結論
non-HDL-Cは総コレステロールよりも強くAMI発症リスクと関連していた。さらに,解析に用いた多変量モデルをもとに5年間の急性心筋梗塞発症リスクを予測するリスクスコアシステムを作成したところ,non-HDL-Cによるモデルの予測能は総コレステロールによるモデルを上回っていた。一方,non-HDL-C,総コレステロールのいずれについても,脳卒中発症リスクとの関連はみとめられなかった。

上島氏: 最近,血中脂質の指標としてもっとも注目されているのがnon-HDL-Cです。この文献は,日本で最初の大規模な疫学メタ解析である日本動脈硬化縦断研究(JALS)の0次研究により,non-HDL-Cおよび総コレステロールと,急性心筋梗塞(AMI)や脳卒中発症リスクとの関連を検討したものです。

LDL-Cが冠動脈疾患の危険因子であることは,これまでに多くの研究から示されています。しかし,LDL-Cは空腹時採血を前提としたFriedewaldの式*により算出するため,健診のように,空腹時採血を全員で行うのが難しいときにはあまり実用的ではありません。
一方,non-HDL-Cは総コレステロールからHDL-Cを引くことで求められ,非空腹時採血でも算出できることが大きなメリットです。JALS 0次研究でも,採血データの一部が非空腹時のものであったため,総コレステロールとnon-HDL-Cを用いることにしました。

* LDL-C値=総コレステロール値-HDL-C値-トリグリセリド値/5

得られた結果からのメッセージは,「欧米にくらべて心筋梗塞の罹患率が低い日本人においても,総コレステロールが上がれば心筋梗塞のリスクは連続的に高くなる」ということで,フラミンガム研究からのメッセージと同じです。総コレステロールのかわりにnon-HDL-Cを用いても,結果は同様でした。なお,これまでの研究では,男性とは異なり,女性の総コレステロール高値は心筋梗塞のリスクにはならないという結果も多かったのですが,今回は,女性でも総コレステロール,non-HDL-Cのいずれも心筋梗塞リスクとの有意な関連を示していました。

さらにこの文献では,解析結果を用いて作成したリスクスコアについても発表しています。
2007年に発表したNIPPON DATAのリスクチャート(→抄録へ)は,WHOのリスクチャート(→WHOのウェブサイトへ)と同様に,総コレステロール,血圧などの条件ごとに予測されるリスクを視覚的に色で示したものです。一方,今回のJALSのリスクスコアはフラミンガムリスクスコアに近いもので,種々の危険因子の状況に応じて点数を加算していき,合計ポイントにより5年間のAMI発症率を予測します。

リスクスコアシートは,JALSのウェブサイトからExcelファイルとしてダウンロードすることができます (→http://jals.gr.jp/index.html: 「JALS 急性心筋梗塞リスクスコアシート」 ボタンから)。個人のAMIリスクを予測するツールとして,ぜひ活用していただきたいと思います。

― ほかの編集委員からのコメント ―

寺本 民生氏 (帝京大学医学部内科) NIPPON DATAは死亡をエンドポイントとしたリスクチャートでしたが,今回のJALSの心筋梗塞リスクスコアは発症をエンドポイントとしたものであり,同じく冠動脈疾患発症をエンドポイントとしているフラミンガムリスクスコアと比較できる点が大きなメリットだと思います。心筋梗塞リスク予測能に関するnon-HDL-Cと総コレステロールの比較では,non-HDL-Cのほうがやや予測能が強いものの,両者はほぼ同等と考えてよい結果でした。これは,他のコホート研究の結果とも一致しています。



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