[開設10周年記念座談会]わが国の循環器疫学研究の過去・現在・未来(前編)

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roundtable: 開設10周年記念座談会出席者写真 寺本民生氏,上島弘嗣氏,大橋靖雄氏,桑島巌氏,堀正二氏
[発言者(50音順)]  司会:  寺本民生 (帝京大学臨床研究センター)
    磯 博康 (大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学)
    上島弘嗣 (滋賀医科大学アジア疫学研究センター)
    大橋靖雄 (中央大学理工学部人間総合理工学科生物統計学)
    桑島 巖 (特定非営利活動法人臨床研究適正評価教育機構)
    堀 正二 (大阪国際がんセンター)

(2016年12月実施)

はじめに
 疫学研究は,臨床でのいわゆるclinical questionに答える,もしくはそれを引き出すためのツールといえます。パイオニア的存在であるフラミンガム心臓研究は,高血圧や脂質異常といった危険因子の概念をはじめて確立し,その後の治療や健康施策に大きな影響を与えてきました。また,疫学研究の知見に引き続いて薬剤が開発され,その薬剤の臨床試験の結果に基づいてガイドラインが作成されて治療の標準化が進められてきました。そこから新たなclinical questionが生じ,それに答えるべく疫学研究や介入試験が行われるという相互関係のなかで予防や治療が発展してきたのはご存知のとおりです。
 「循環器疫学サイト epi-c.jp」が開設された10年前(2007年)は,数多くの介入試験が実施され,ガイドラインにおける治療目標値の議論が盛んに行われるなかで,疫学研究のみかたや考えかたも変化してきた時期にあたります。そこで今回は,10周年の節目に,編集委員にこの10年間を振り返ってお話しいただきました。(司会・寺本民生氏)

 座談会の内容は2回にわけて公開します。前半の今回は,「この10年の循環器領域の潮流」 「臨床に対する疫学の影響」 「疫学に対する臨床の影響」を掲載します。

1. この10年の循環器領域の潮流
2. 臨床に対する疫学の影響
3. 疫学に対する臨床の影響
4. 疫学研究の課題
5. 今後の展望
<循環器疫学研究のあゆみを示した年表もあわせてご覧ください>

1. この10年の循環器領域の潮流

循環器疾患死亡率が低下した一方で,高齢化に伴う新たな課題も

寺本民生氏 寺本 2007年2月に開設された「循環器疫学サイト epi-c.jp」には,2016年12月現在,計36研究の文献抄録586本が収載されています。本日は,この10年間の日本の循環器疫学研究とそれをとりまく状況の変化について,疫学と臨床の両方の面からお話しいただきたいと思います。

 2007年というのは,ちょうどわが国のコホート研究による疫学のエビデンスが充実してきたことで,循環器領域のさまざまなガイドラインにも日本人のデータが積極的に引用され,それまであまり光の当たらなかった疫学研究への関心が高まってきたころです。まず,循環器疾患の領域ではこの10年間にどのような変化があったのか,堀先生にご解説をお願いします。

堀 正二氏  わが国では,世界でも類をみないスピードで高齢化が進みました。それに伴う変化や新たな課題がいくつか挙げられます。

 1つは,高齢化にもかかわらず循環器疾患による死亡率が低下していること。治療そのものだけでなく,治療の普及率も改善したことで,脳卒中や虚血性心疾患を発症してしまったとしても,死に至る症例が少なくなりました。日本人の死因トップ3の推移をみると,しばらく悪性新生物,心疾患,脳血管疾患という順位が続いてきましたが,2011年を境に肺炎が第3位,脳血管疾患は第4位となっています1)

 次に,高齢者の心不全の問題が出てきました。とくに最近注目されている,「収縮機能の保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)」2)は高齢者と女性に多いことがわかっていますが,発症機序や病態が解明されておらず,治療法も確立していないことが臨床での大きな課題となっています。

 3つ目は,やはり高齢化とともに増加する心房細動によって引き起こされる,心原性脳塞栓の対策の必要性です。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の登場を機に,抗凝固療法による予防に大きな関心が集まっていますが,脳梗塞発症者に対する急性期の血栓溶解療法や血管内治療は,急性冠動脈疾患への対応にくらべると,まだ十分に行われているとはいえないからです。

 さらに近年,治療の重点が,平均余命というより健康寿命のほうに置かれるようになってきました。健康寿命に対する影響がもっとも大きいのは脳血管障害,2番目が認知症,3番目が高齢による衰弱という状況です3)。認知症のうち,血管性認知症の占める割合は40~50%ですから,その発症や進行を予防するためにも,われわれ循環器医が血圧や糖尿病をきちんと管理することが引き続き重要と考えられます。


既知の危険因子の「さらに前の段階」にある,社会・経済・文化・心理学的な因子の研究が進んだ

寺本 次に,磯先生に疫学研究の10年を振り返っていただきたいと思います。

 日本は,脳卒中と心筋梗塞の両方を減らすことのできた唯一の国で,とくに心筋梗塞発症率は世界でもっとも低いレベルとなっています。いわゆるサクセス・ストーリーですが,これらの死亡率が低下し,高齢化が進んだ結果として心不全や認知症の問題が出てきた点は,ご指摘があったとおりです。

 疫学研究の面においては,高血圧,糖尿病や脂質異常症といった主要な危険因子の影響がわかってきたなかで,そのさらに前の段階の「cause of cause」,すなわち社会・経済・文化・心理学的因子などの関与に関心が集まっています。たとえば,日本人に出血性脳卒中が多かった背景には,新鮮な野菜や魚が手に入りにくかったために発達してきた塩蔵品をとりすぎて生じる高血圧や,動物性の食品が少ない和食文化のもと,総コレステロール値が低かったことなどの影響がありました。近年,こうした社会・経済・心理学的因子と循環器疾患との関連についての研究が進んでおり,マルチレベル分析などの新しい統計解析手法も活用されています。社会・経済・心理学的な地域差がいまや国全体に及ぶ健康格差にも発展していることが懸念されるなかで,単に血圧や血糖,コレステロールの値をみるだけでなく,なぜそうなったかという背景にも目を向けることが,今後ますます大切になっていきます。


生涯リスクを考慮し,血圧やLDL-Cの目標値はさらに低く

寺本 危険因子の推移をみると,もっとも顕著なのは血圧の低下で,2015年までの10年間で有意に低下しています4)

桑島 巖氏 桑島 疫学研究では,収縮期血圧(SBP)120 mmHgから循環器疾患発症リスクが上昇していくことがわかっていたものの5,6)抄録へ),治療によって140 mmHgよりもさらに下げるべきかについては,はっきりと示されていませんでした。しかし2015年,SPRINT試験によって120 mmHgを目標とする厳格降圧治療の心血管イベント抑制効果(vs. 140 mmHgを目標とする標準降圧治療)が示されたことで7),やっと疫学とランダム化比較試験(RCT)の結果がぴったり一致したといえます。

 最近は,治療の意義として,単なるイベント抑制ではなく,血管を保護して長持ちさせようという考え方が広まってきています。そのために大切なのは,血管への長期的な負荷となる血圧を積極的に下げることであり,今後,降圧目標値はより低くなっていくでしょう。

寺本 同じ血圧値であっても,若いときからずっと継続して血圧の高い方と,高齢になってから血圧が高くなった方とでは,血管への負荷の蓄積が大きく異なりますね。脂質異常症でも同様で,LDL-Cが高い状態への暴露の指標として,累積LDL-Cに注目が集まっています。こうした観点で,若年時からのいわゆる生涯リスク(lifetime risk)を評価していくことが,これからは重要になっていくと思います。

 この10年間で,総コレステロール値はおおむね200 mg/dL前後で推移してきましたが4),女性では閉経後に血清脂質値が上がります。ただし,それは50代以降のことなので,生涯のなかで高い値に暴露されている期間はそれほど長くないのです。しかし最近懸念されているように,20~30代のときから総コレステロール値や,とくにLDL-C値が高い状態になると,暴露期間が長くなるため,生涯リスクが高くなります。現在,肉類のほうが魚より安く購入できること,魚は三枚におろすことをはじめとして肉より調理に手間がかかること,さらに多忙で外食や出来合いの惣菜を利用する機会が多いことなどから,若い世代では魚の摂取量が減る一方で肉の摂取量が増えています。こうした社会的な背景を含めて,対策を考える必要があります。

寺本 社会的な変化や生活習慣の変化のなかで,若年の段階から総コレステロール値の上昇がみられるようになったのは由々しきことです。一方で,新しい脂質異常症治療薬であるPCSK9(前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)阻害薬の登場後,治療時の目標LDL-C値は,従来の100 mg/dLよりさらに低い,70 mg/dL未満が国際的な主流になりつつあります。いわば「下げようと思えばどこまででも下げられる時代」になったことで,どのようにリスクの高い人をみつけて治療介入すべきかという,スクリーニングのしかたをあらためて考えるときにきていると思います。


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2. 臨床に対する疫学の影響

収縮機能が保たれている心不全(HFpEF)の概念を確立したのはフラミンガム心臓研究

寺本 では,現在の疫学と臨床とのつながりについて掘り下げていきたいと思います。まず,臨床に大きな影響を与えた最近の疫学のエビデンスというと,どのようなものがありますか。

 循環器疾患の主要な危険因子の推移や,有病率・死亡率などの基本的なデータが臨床現場で活用されていることはいうまでもありませんが,それ以外にも,疫学研究によって新しい疾患概念が確立されたということがありました。さきほども指摘したHFpEFです。

 1989年ごろから,収縮機能が正常な心不全があるという臨床からの小規模な報告がみられるようになりました8)。全体ではどれくらいの頻度なのかという臨床現場からの疑問に対し,1999年にフラミンガム心臓研究が,心不全例のうち収縮機能正常者の割合は51%と報告した9)ことをきっかけに,新しい疾患概念として広く認識されるようになったのです。HFpEFという言葉が用いられるようになったのはもう少しあとでしたが10,11),健診での心エコー検査が一般的ではなかった当時のインパクトは非常に大きいものでした。ただし,HFpEFの病態生理はいまだにはっきりとわかっておらず,これといった治療薬もないため,高齢化社会における頭の痛い問題となっているのはお話ししたとおりです。

寺本 日本でのHFpEFの実態もわかってきていますか。

 東北大学で2006年から行われているCHART-2研究に登録された心不全例のうち,左室駆出率(EF)≧50%の例は68%(3124/4544例)だったことから12),日本では欧米よりも多いことが示唆されます。さらに興味深いことに,わが国の虚血性心疾患はおおむね減少傾向にあるにもかかわらず,CHART-2研究では,先行するCHART-1研究(2000年開始)よりも虚血性心不全の占める割合が高くなっているのです13)

上島弘嗣氏 上島 日本では,心筋梗塞発症者の平均年齢は,欧米にくらべて数歳以上高いのです。つまり,より高齢になってから心筋梗塞を起こすので,病態も,欧米とは大きく異なると考えたほうがよさそうです。

 欧米のHFpEFとは違うものをみているのでしょうね。東北地方以外でも同じ結果になるかはまだわかりませんが,こうした動向も,日本人を対象とした疫学研究を行わなければ決してわからなかったことです。


「日本発」の家庭血圧測定が日常診療を変えた

寺本 桑島先生にも,臨床へのインパクトが大きかった疫学研究についてうかがいたいと思います。

桑島 血圧に関しては,SBPのほうが拡張期血圧(DBP)よりもリスク予測能が高いことが示され,複数のメタ解析でも裏付けられました(APCSCの抄録へJALSの抄録へ)。また,日本では大迫研究(研究紹介へ)から家庭血圧のさまざまなデータが発表され,国際的なガイドラインにも引用されるなど,海外でも関心を集めています。さらに,大迫研究に引き続いて行われた介入試験HOMED-BPでも,高血圧患者における家庭血圧測定での到達血圧値と予後との関連にJカーブ現象はみられず,いわゆるthe lower, the betterが裏付けられたことは,臨床に大きな影響を与えました14)

寺本 家庭血圧測定によって,白衣高血圧や仮面高血圧,早朝型の高血圧などの病態も徐々に明らかになってきましたね。

 世界でもっとも家庭血圧が普及しているのは日本です。われわれも日々,信頼性の高い家庭血圧値を用いながら降圧薬を処方しており,こうして日本の疫学研究が世界をリードしていることを,とても誇らしく思います。

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3. 疫学に対する臨床の影響

時代とともに重みは変わるが,危険因子そのものは変わらない

寺本 逆に,疫学研究の方法や結果に対して,臨床での変化が影響を与えていることも多くあると思います。

 1998年に大阪大学で開始された心筋梗塞の登録研究OACIS(研究紹介へ)では,最近,経皮的冠動脈インターべンションによる急性期治療が普及して軽症例が増えたことを背景に,β遮断薬による二次予防のベネフィットが有意ではなくなるという変化がありました15)。もちろん,急性期治療が遅れた例や重症例では引き続きβ遮断薬の投与が必要ですが,今後,軽症例も含めたガイドラインでの表記には変更が必要かもしれません。

桑島 韓国で開催された2016年の国際高血圧学会でも,同じような話を聞きました。日本のガイドラインではレニン-アンジオテンシン系阻害薬のうちACE阻害薬についてのみ心筋梗塞の予防効果が明記されている16)点について,米国の研究者が,「ACE阻害薬とARBには,エビデンスに約10年のギャップがある。そのあいだにスタチンや抗血小板薬などによる治療状況が著しく改善したことの影響を除外すれば,ARBにも同じ効果がみとめられるはず」と指摘したのです。

上島 循環器疾患の危険因子自体は,時代や地域によって変わるものではありません。いつでもどこでも,心筋梗塞の危険因子といえば脂質異常症や高血圧,喫煙,糖尿病などです。しかし,それぞれの因子に暴露される期間や強さが違うと,リスクとしての重みが変わってくるのです。ご指摘のように,臨床現場で治療状況が改善してきていることも,危険因子の重みが時代とともに変化する大きな要因となっています。

寺本 集団によって,あるいは同じ集団でも時代によって,危険因子の強さが変わってくるということですね。

上島 総コレステロールは日本人でも心筋梗塞の危険因子ですが,Seven Countries Study(研究紹介へ)で示されたように,1950年当初,平均値が150~160 mg/dLであった日本と,250 mg/dL超で心筋梗塞の発症率も日本の15倍以上だったフィンランドとでは,心筋梗塞に対する寄与度は異なります(抄録へ)。

大橋靖雄氏 大橋 昔の日本人の総コレステロール値は全体的に非常に低かったため,そのなかで高値の人のリスクが高かったとしても,誤差とくらべて情報量が相対的に小さくなってしまい,統計学的に有意な危険因子とならないのです。それだけの問題です。

 最近,総コレステロール値が200 mg/dL前後に落ち着いている背景として,スタチンによる治療の普及が指摘されています。降圧薬服用率の増加によって,中程度~重度の高血圧患者もかなり少なくなりました。一部の危険因子については,こうした治療状況の影響で,イベントとの関連が検出されにくくなっています。とくに数千人規模のコホート研究単独では,統計学的に有意な結果とならないこともありますが,関連そのものがなくなったわけではありませんので,大規模な研究やメタ解析では検出が可能です。

寺本 つまり,一部の危険因子の寄与度が小さくなってきたからといって,「もう管理しなくてもよい」というわけではありません。この点には注意が必要だと思います。


リスクの多様化や危険因子の集積も含めた「その時代の」絶対リスク評価が求められる

寺本 高齢化とともに,多くの人がなんらかの病気をもち,病気とともに生きていく時代になってきています。こうしたリスクの多様化や危険因子の集積に対応するために,最近のガイドラインでは,複数の危険因子を用いた絶対リスク評価が取り入れられています(年表も参照)。その意義をあらためて教えてください。

上島 絶対リスクとは,特定の集団におけるイベントの発生率をさします。さきほどから話に出ているように,生活習慣や治療状況が変化するなかで,同じ70歳でも,SBPの平均値が160 mmHg近かった1970年代の70歳の集団と,144 mmHgにまで下がった2010年代の70歳16)の集団とでは,それまでに高血圧に暴露されてきた負荷量が違うので,循環器疾患を発症する確率,すなわち絶対リスクも異なるというわけです。

 臨床医がまさに必要としているのが,時代に即した疫学データだと思います。

寺本 目の前の患者さんにどのくらいの確率でイベントが起きるのか,それを防ぐためにはどうしたらよいのかを知りたいわけですよね。

上島 絶対リスクを推定するためには,その時代の疫学コホート研究によって実際に観察された,イベント発生率のデータが不可欠です。したがって,日本人を対象とした疫学研究を継続的に行い,「その時代における絶対リスク」を評価することが,これからも求められていくと思います。

<参考>リスク評価ツールについて,対談「わが国の循環器疾患絶対リスク評価ツールを臨床で活用するために」を読む


時間がかかる疫学研究の限界を補う,個人ベースのメタ解析

寺本 ただ,実際に疫学研究の結果が出るまでには,ベースライン調査から10~20年かかることが多いのが悩ましい点です。日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012年版』のリスク評価チャートも,1980年にベースライン調査を行ったNIPPON DATA80(研究紹介へ)のデータをもとにしています。

上島 当時の絶対リスクは現在より高かったため,リスク評価チャートによる過大評価は避けられません。ただし,1980年当時は,スタチンや,現在使われている降圧薬の多くはまだ出てきていませんでした(年表も参照)。つまり,治療の影響がほとんどない「ありのまま」に近い状態で,危険因子と心血管疾患リスクとの関連をみることができるということでもあります。その後,治療薬の登場などによって絶対リスクが徐々に低下した。それ自体はよいことですが,疫学研究を行う立場からみると,以前よりも対象者数を増やすか,あるいは追跡期間をさらに長くしなければ,統計学的に必要な数のイベントを観察できなくなってきている面があります。

寺本 既存のデータをまとめて解析するメタ解析ならば,大規模な検討が可能であり,追跡期間が短いこともカバーできるのではないでしょうか。JALS(研究紹介へ),APCSC(研究紹介へ),EPOCH-JAPAN(研究紹介へ)などでは,バイアスを最小限に抑える個人ベースのメタ解析研究の手法がとられています。

 これまで,数千人~1万人規模の地域コホート研究だけでは頻度の低いイベントの評価や詳細な層別解析を行うのは難しかったのですが,この10年で,複数のコホート研究のデータを集めて統合解析を行う体制が整ったことで,JALSやEPOCH JAPANが実を結んだといえます。

大橋 JALS統合研究のほうは2000年代の新しいコホートですので,過去のリスクスコアの予測能がどうかということを検証してみました。その結果,実際のイベント発生率は予測された値より低くなっており,やはり日本人の絶対リスクが経時的に低下していることが裏付けられました。こうした変化を考慮すると,同じ年齢でも,昔の70歳といまの70歳とはもはや違いますから,昔の70歳がいまの何歳に該当するかという検討も行っています。

 冠動脈ステントをはじめとしたデバイスの場合,中・長期的な追跡データが出る前に,もう改良された次のモデルが出てくることもしばしばあります。新しい薬やデバイスが,将来のイベント発生率や死亡率の低下にどれだけ寄与しそうかということを推定できると助かるのですが,そのようなことは可能なのでしょうか。

上島 血圧などの古典的な危険因子については,国の調査で長期的な動向がわかっているので,たとえば死亡率のデータと組み合わせることによって,何mmHg下がれば死亡率がこれだけ低下するだろうという試算はできます。今後,保険診療のレセプトデータなども組み合わせることができるようになれば,より詳しく具体的な予測も可能になると思いますが,それでも交絡因子の影響をすべて取り除くことはできないため,介入の効果は,最終的にはやはり臨床試験を行って確認しなければ危険です。

<参考>個人ベースのメタ解析について,疫学レクチャー第5回「疫学メタ解析のよみかた」を読む


--- つづく---


文  献

[1] 厚生労働省. 人口動態調査: 平成27年(2015) 人口動態統計の年間推計.
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei15/dl/2015suikei.pdf(2016年12月閲覧)

[2] Maeder MT and Kaye DM. Heart failure with normal left ventricular ejection fraction. J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 905-18. pubmed

[3] 厚生労働省. 平成25年 国民生活基礎調査の概況: IV 介護の状況.
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/05.pdf(2016年12月閲覧)

[4] 厚生労働省. 国民健康・栄養調査: 平成27年国民健康・栄養調査結果の概要.
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou.pdf(2016年12月閲覧)

[5] Fukuhara M et al. Impact of lower range of prehypertension on cardiovascular events in a general population: the Hisayama Study. J Hypertens. 2012; 30: 893-900. pubmed

[6] Vasan RS et al. Impact of high-normal blood pressure on the risk of cardiovascular disease. N Engl J Med. 2001; 345: 1291-7. pubmed

[7] The SPRINT research group. A randomized trial of intensive versus standard blood-pressure control. N Engl J Med. 2015; 373: 2103-16. pubmed

[8] Johnson JA. Diastolic dysfunction in congestive heart failure. Clin Pharm. 1991; 10: 850-61. pubmed

[9] Vasan RS et al. Congestive heart failure in subjects with normal versus reduced left ventricular ejection fraction: prevalence and mortality in a population-based cohort. J Am Coll Cardiol. 1999; 33: 1948-55. pubmed

[10] Lee DS et al. Relation of disease pathogenesis and risk factors to heart failure with preserved or reduced ejection fraction: insights from the framingham heart study of the national heart, lung, and blood institute. Circulation. 2009; 119: 3070-7. pubmed

[11] Ho JE et al. Discriminating clinical features of heart failure with preserved vs. reduced ejection fraction in the community. Eur Heart J. 2012; 33: 1734-41. pubmed

[12] Nochioka K et al; CHART-2 Investigators. Prognostic impact of statin use in patients with heart failure and preserved ejection fraction. Circ J. 2015; 79: 574-82. pubmed

[13] Shiba N et al; CHART-2 Investigators. Trend of westernization of etiology and clinical characteristics of heart failure patients in Japan--first report from the CHART-2 study. Circ J. 2011; 75: 823-33. pubmed

[14] Asayama K et al; Hypertension Objective Treatment Based on Measurement by Electrical Devices of Blood Pressure (HOMED-BP). Cardiovascular outcomes in the first trial of antihypertensive therapy guided by self-measured home blood pressure. Hypertens Res. 2012 Nov;35(11):1102-10. pubmed

[15] Nakatani D et al; Osaka Acute Coronary Insufficiency Study (OACIS) Investigators. Impact of beta blockade therapy on long-term mortality after ST-segment elevation acute myocardial infarction in the percutaneous coronary intervention era. Am J Cardiol. 2013 Feb 15;111(4):457-64. pubmed

[16] 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2014. ライフサイエンス出版株式会社(2014).




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