[学会報告・日本動脈硬化学会2011] シンポジウム「動脈硬化性疾患の疫学:今求められている日本人のためのエビデンス」

座長

第43回日本動脈硬化学会総会・学術集会は,2011年7月15日(金)~16日(土)に,札幌にて開催された。

ここでは,7月15日(金)に行われたシンポジウム5 「動脈硬化性疾患の疫学:今求められている日本人のためのエビデンス」(座長: 慶應義塾大学 衛生学公衆衛生学・岡村智教氏,みずほフィナンシャルグループ 大阪健康開発センター・廣部一彦氏)の内容を紹介する。開始に先立ち,岡村氏は「現在,動脈硬化性疾患予防ガイドラインの2012年の改訂に向けた検討が行われている。このシンポジウムでは,いま中心的に議論されているものというよりは,さらに次の改訂でのトピックスとなるような,周辺領域の話題や新しい検討項目についてとりあげたい」と述べた。

また,囲み記事として,同日の「新ガイドライン2012に向けて」セッションから,絶対リスク評価に関する演題の概要も紹介する。


■ 目 次 ■  * タイトルをクリックすると,各項目にジャンプします
1. 新しい急性心筋梗塞発症リスクスコア: 日本動脈硬化縦断研究(JALS)0次コホート
田邊 直仁氏 田邊 直仁 氏 (新潟県立大学人間生活学部 健康栄養学科)
2. 日本人における糖尿病と動脈硬化性疾患の疫学,および糖尿病患者における循環器疾患予防のエビデンス
斎藤 重幸氏 斎藤 重幸 氏 (札幌医科大学医学部 内科学第二講座)
3. LDL-Cの直接測定法は疫学研究に用いることができるか
丹野 高三氏 丹野 高三氏 (岩手医科大学医学部 衛生学公衆衛生学講座)
4. 喫煙・飲酒と心血管疾患: 日本の疫学研究からの知見
東山 綾 氏 東山 綾 氏 (兵庫医科大学 環境予防医学)
会場インタビュー東山 綾氏に聞く: γ-GTPは循環器疾患のマーカーとしても有用な可能性
5. 脂質異常症と脳卒中の各病型のリスク: Circulatory Risk in Communities Study(CIRCS)より
大平 哲也氏 大平 哲也 氏 (大阪大学大学院医学系研究科 社会環境医学講座 公衆衛生学)

COLUMN
枇榔 貞利氏
セッション「新ガイドライン2012に向けて」より
新ガイドラインにおける動脈硬化性疾患の絶対リスクの評価
枇榔貞利氏 (Tsukasa Health Care Hospital)

1. 新しい急性心筋梗塞発症リスクスコア: 日本動脈硬化縦断研究(JALS)0次コホート

田邊 直仁氏 発表者:
田邊 直仁 氏 (新潟県立大学人間生活学部 健康栄養学科)

 日本の既存のコホート研究のデータをプールしたJALS 0次研究(JALS-ECC)のデータをもとに,総コレステロール値/non-HDL-C値,およびその他の主要な危険因子の保有状況から急性心筋梗塞発症リスクを予測することのできるリスクスコアを作成した。
 non-HDL-C値は食後採血の場合も算出可能で,健診でも用いやすい指標と考えられるが,現在,特定健診等では制度上,総コレステロール値を測定することができず,したがってnon-HDL-C値も算出できない。今後の総コレステロール値測定の再開,ならびにnon-HDL-C値の活用が強く望まれる。

- 背景・目的 -
総コレステロール(TC)やnon-HDL-Cと循環器疾患リスクとの関連について,発症をエンドポイントとして評価した日本人の大規模なコホート研究は少ない。また,そのようなデータをもとに循環器疾患の罹患確率を推定するツールはほとんどなかった。
そこで,既存のコホート研究のデータをプールしたJALS 0次研究(JALS-ECC)のデータを用いて,TCおよびnon-HDL-Cと循環器疾患発症リスクとの関連を検討するとともに,日本人一般住民において,5年間の急性心筋梗塞発症リスクを予測することのできるリスクスコアシステムを作成した。

- コホート・手法 -
対象は,JALS 0次研究(21コホート,66691人)のうち,以下の3つの条件を満たす10地域コホートにおける,脳卒中または虚血性心疾患の既往のない40~89歳の22430人とした(男性8953人,女性13477人)。平均追跡期間は7.6年。
 ・ 地域住民コホート
 ・ 発症エンドポイントとして急性心筋梗塞(AMI)の発症が含まれている
 ・ 総コレステロール,HDL-C,血圧,身長,体重,喫煙,糖尿病既往のデータに不備がない

ベースラインのTC,non-HDL-Cの値により,それぞれ全体を以下のとおり四分位に分けて解析を行った。
[TC(mg/dL)] Q1: 176未満(対照),Q2: 176以上199未満,Q3: 199以上224未満,Q4: 224以上
[non-HDL-C(mg/dL)] Q1: 118未満(対照),Q2: 118以上142未満,Q3: 142以上167未満,Q4: 167以上

- 結果 -
◇ 対象背景
平均年齢58歳,TC 201 mg/dL,non-HDL-C 144 mg/dL,血圧130 / 77 mmHg,グレード1~3の高血圧の割合 73.2 %,BMI 23.1 kg/m2,喫煙率 24.5 %,糖尿病既往歴 5.9 %。
脳卒中の発症は339人,AMIの発症は104人であった。

◇ TC,non-HDL-CとAMI発症リスク
AMI発症について,TC値がもっとも低いQ1における罹患率を1とした場合の罹患率比(incidence rate ratio: IRR)は,TCの値が高いカテゴリーほど有意に高くなっていた(多変量調整後のP for trend<0.001,χ2=17.8)。
non-HDL-Cについても同様に,値が高いカテゴリーほどAMI発症のIRRが有意に高くなっており,用量-反応関係の強さはnon-HDL-CのほうがTCにくらべて優っていた(多変量調整後のP for trend<0.001,χ2=23.5)。
男女別に解析を行っても,結果は同様であり,TC,non-HDL-Cのいずれについても性別による有意な相互作用はみとめられなかったことから,以降の解析は男女を合わせて行った。

ROC曲線下面積(area under the receiver operating curve: AUC)を算出すると,TCは0.817,non-HDL-Cは0.833と,non-HDL-Cのほうがリスク予測能に若干優れていることが示された。

◇ TC,non-HDL-Cと脳卒中発症リスク
脳卒中発症のIRRは,TC,non-HDL-Cのいずれとも有意な関連を示していなかった。
男女別の解析,および脳卒中病型(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)別の解析を行っても,結果は同様であった。

◇ AMI発症リスクスコアの作成
以上の結果より,下に示す危険因子の保有状況から個人の5年間のAMI発症の累積ハザードを算出できるリスクスコアシステムを作成し,公開した。
因子: non-HDL-C(総コレステロールとHDL-Cから自動的に算出),性別(男/女),年齢 (40~49歳/50~59歳/60~69歳/70~79 歳/80~89歳),HDL-C(40 mg/dL以上/未満),血圧(正常高値以下/グレード1高血圧/グレード2以上の高血圧),糖尿病既往(あり/なし),喫煙 (喫煙未経験または禁煙/現在喫煙)

具体的な例を挙げると,グレード2高血圧と糖尿病を有する60歳代の喫煙者の男性でnon-HDL-Cが190 mg/dL,HDL-Cが40 mg/dL未満の場合,リスクスコアは合計77.5点となり,今後5年以内にAMIを発症する確率は3.5 %と予測される(すなわち,「同じような人のうち29人に1人が発症する」と考えられる)。

リスクスコアシートはJALSのウェブサイトからExcelファイルとしてダウンロードできるようになっている。 (→http://jals.gr.jp/index.html: 「JALS 急性心筋梗塞リスクスコアシート」 ボタンから) 診察室にパソコンがない場合などは,文献(Circ J. 2010; 74: 1346-56.pubmed)(抄録へ)に示してある表を印刷して用いることも可能。

このリスクスコアシステムを用い,1980年および2000年の循環器疾患基礎調査の5歳階級別データをもとに,40~89歳の日本人全体のAMI発症リスクの年齢調整値を仮に算出し,比較した。1980年から2000年にかけ,総コレステロール値の上昇,尿糖の上昇,喫煙率の低下,高血圧有病率の低下などがみられたが,AMI発症リスクはそれぞれ0.23%,0.24%とほぼ同等の値が得られ,この20年間の日本人の心筋梗塞リスクに大きな変化がないことが示唆された。

- 結論 -
・ TC,non-HDL-CはいずれもAMI発症リスクとの有意な正の関連を示しており,その関連の度合いはnon-HDL-Cのほうが強かった。
・ TC,non-HDL-Cはいずれも脳卒中発症リスクとは関連していなかった。
・ non-HDL-Cは食後採血の場合も算出可能であり,LDL-C以外の動脈硬化惹起性リポ蛋白の評価も可能であるなど,LDL-Cと比較して健診の現場でも用いやすい指標と考えられるが,現在,特定健診等では制度上,総コレステロール値を測定することができず,したがってnon-HDL-C値も算出できない。今後のTC測定の再開,ならびにnon-HDL-Cの活用が強く望まれる。
・ non-HDL-Cを用い,AMI発症リスクを予測するリスクスコアシステムを作成した。このリスクスコアを,生活習慣改善や高血圧治療のきっかけとするなど,健康教育や臨床の場でぜひ活用してもらいたい。また,日本人全体のAMI罹患リスクがどのように変化しているかという公衆衛生学的な評価にも,リスクスコアを用いることができる可能性がある。


2. 日本人における糖尿病と動脈硬化性疾患の疫学,および糖尿病患者における循環器疾患予防のエビデンス

斎藤 重幸氏 発表者:
斎藤 重幸 氏 (札幌医科大学医学部 内科学第二講座)

 糖尿病患者は平均寿命が非糖尿病者より10年以上短く,心血管疾患のリスクも高いことがこれまでに示されている。わが国の糖尿病有病率は増加の一途をたどっており,今後の動脈硬化性疾患への影響が懸念される。

糖尿病ならびにその関連病態と,心血管疾患および動脈硬化性疾患の関連についての疫学的データを紹介する。

- わが国の糖尿病,前糖尿病の有病率 -
1997年の国民栄養調査における糖尿病(HbA1c[JDS値]≧6.1%)患者は690万人,前糖尿病(HbA1c[JDS値]が5.6%以上6.1%未満)患者は680万人,合計は1370万人であった。2007年の国民栄養調査では,糖尿病は890万人,前糖尿病は1320万人,合計は2210万人と,1997年からの10年間で大幅な増加がみとめられ,その後の心血管疾患発症への影響が懸念された。
国民栄養調査における糖尿病有病率は,1970年代から大きく増加しはじめているが,わが国の自動車保有台数をみると,1960年代後半から顕著に増加しており,糖尿病有病率との関連が示唆された。

- 糖尿病患者の生命予後 -
1980~1990年,および1991~2000年の日本人全体および糖尿病患者の平均寿命を比較した結果は以下のとおりで,男女とも,糖尿病患者では非糖尿病者に比して平均寿命が10歳以上短いことが示された。
・ 1980~1990年
  全体(男性)75.9歳,全体(女性)81.9歳
  糖尿病(男性)66.5歳,糖尿病(女性)68.4歳
・ 1991~2000年
  全体(男性)77.6歳,全体(女性)84.6歳
  糖尿病(男性)68.0歳,糖尿病(女性)71.6歳

- 糖尿病患者における心血管疾患発症リスク -
Japan Diabetes Complications Study(JDCS)における日本人糖尿病患者の心血管疾患発症率を,久山町研究における日本人一般住民,およびUKPDS研究における英国の糖尿病患者と比較した結果は以下のとおり。日本人糖尿病患者では,一般住民にくらべて冠動脈疾患発症率がとくに高く,糖尿病が動脈硬化性疾患に大きな影響を与えることが示唆された。
・ 冠動脈疾患発症率(1000人・年あたり)
  糖尿病患者(日本): 9.6 (男性11.2,女性7.9)
  日本人一般住民: 男性3.5,女性1.8
  糖尿病患者(英国): 17.4
・ 脳卒中発症率(1000人・年あたり)
  糖尿病患者(日本): 7.6 (男性8.5,女性6.6)
  日本人一般住民: 男性5.3,女性3.9
  糖尿病患者(英国): 5.0

- NIPPON DATAからの知見 -
◇ HbA1c値と心血管疾患死亡リスク
NIPPON DATA90において,HbA1c(JDS値)のデータを有する7722人を5つのカテゴリー(4.9%以下,5.0~5.4%,5.5~5.9%,6.0~6.4%,6.5%以上)に分け,ベースラインから約10年間の心血管疾患死亡率を比較・検討した。その結果,HbA1c値が高いカテゴリーほど心血管疾患死亡率が高くなっており,とくに5.0~5.4%と値があまり高くないカテゴリーにおいても,4.9%以下に比して死亡率が増加していた。
多変量解析を行うと,HbA1c値が4.9%以下のカテゴリーに比して,5.5~5.9%のカテゴリーでは心血管疾患死亡リスクが約2倍に増加していた(P=0.002; 年齢,性別,BMI,高血圧の有無,高脂血症の有無,喫煙,心血管疾患既往歴による調整後)。

◇ 糖尿病,高脂血症の有無と虚血性心疾患リスク
NIPPON DATA80の9511人を,糖尿病(随時血糖値≧200 mg/dL)の有無,および高脂血症(総コレステロール値≧240 mg/dL)の有無の組み合わせによる4つのカテゴリーに分け,ベースラインから19年間の虚血性心疾患死亡リスクを比較・検討した。その結果,非糖尿病+非高脂血症にくらべ,高脂血症のみ(非糖尿病+高脂血症),および糖尿病のみ(糖尿病+非高脂血症)のカテゴリーでも虚血性心疾患死亡リスクが増加していたが,両者をあわせもつ糖尿病+高脂血症のカテゴリーでは,リスクが約6倍と顕著に増加した。

◇ 糖尿病と冠動脈疾患リスク
NIPPON DATA 80のリスクチャートにおいて,糖尿病(随時血糖値≧200 mg/dL)の有無,および喫煙の有無による男性の冠動脈疾患リスクをみると,年齢層(40~49歳,50~59歳,60~69歳,70~79歳),および喫煙の有無をとわず,糖尿病患者では非糖尿病者に比してリスクが高いことがわかった。

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3. LDL-Cの直接測定法は疫学研究に用いることができるか

丹野 高三氏 発表者:
丹野 高三氏 (岩手医科大学医学部 衛生学公衆衛生学講座)

 大規模一般住民コホートにおいて,直接測定法によるLDL-C値とFriedewaldの式によるLDL-C値の比較を行い,さらに直接測定法によるLDL-C値の心筋梗塞発症リスク予測能を評価した。その結果から,非空腹時採血を行った場合やトリグリセリド値が高い場合は,Friedewaldの式を用いるべきではないと考えられた。また,直接測定法によるLDL-C値は,十分な精度管理を行ったうえであれば,Friedewaldの式によるLDL-C値の代わりとして疫学研究にも用いることができると考えられた。

- 背景・目的 -
これまで,数多くの疫学研究においてLDL-C値が冠動脈疾患リスクに関連することが示されてきたが,その多くがFriedewaldの式により算出されたLDL-C値を用いている。
Friedewaldの式は,総コレステロール値,HDL-C値,トリグリセリド値から間接的にLDL-Cを推算するものであるが,この式を用いるためには採血前に9~12時間の絶食を要するという限界があり,疫学研究では使用しにくいものであった。一方,近年普及が進んできたLDL-C直接測定法を用いれば,対象者が非空腹状態であっても測定が可能になる。
そこで,Friedewaldの式により算出したLDL-C(F-LDL-C値)のかわりに直接測定法によるLDL-C(D-LDL-C)値を用いることができるかどうかを検討するために,岩手県北地域コホート研究(Iwate KENCO Study)の対象となった大規模一般住民コホートにおいて,(1)F-LDL-C値とD-LDL-C値の比較,および(2)D-LDL-C値の心筋梗塞発症リスク予測能の評価を行った。

- コホート・手法 -
Iwate KENCO Study。
(1) F-LDL-C値とD-LDL-C値の比較
2002~2005年の健診を受診した岩手県北の沿岸地域在住の一般住民26469人(男性9161人,女性17308人)のうち,トリグリセリド(TG)値が400 mg/dL未満で脂質異常症の治療を受けておらず,脳卒中または心筋梗塞の既往のない40~79歳の21194人(男性7349人,女性13845人)。
(2) D-LDL-C値の心筋梗塞発症リスク予測能の評価
岩手県北の沿岸地域在住で,18歳以上かつ心血管疾患の既往のない一般住民男性8714人。追跡期間は2.7年間。

測定に用いた血液検体は,12時間以上の絶食後に採血した場合に「空腹時」,それ以外の場合に「非空腹時」であるとした。総コレステロール値,TG値,HDL-C値を酵素法によりそれぞれ直接測定し,LDL-C値については,Cholestest® LDLキットを用いて直接測定した値をD-LDL-C値とし,Friedewaldの式により算出した値をF-LDL-C値とした。
総コレステロール値,HDL-C値,LDL-C値のいずれも,いずれも大阪府立健康科学センターにおける標準化を行ったうえで測定した。

- 結果 -
(1) F-LDL-C値とD-LDL-C値の比較(pubmed
対象者のうち,空腹時採血であったのは3270人,非空腹時採血であったのは17294人であった。

・ 空腹時検体での検討
全体のF-LDL-C値とD-LDL-C値に差はみられなかったが,TG 150 mg/dL以上の人では,F-LDL-C値よりD-LDL-C値がやや高く,その差は統計学的に有意であった。
  全体: F-LDL-C値125.3 mg/dL,D-LDL-C値125.3 mg/dL
    TG 150 mg/dL未満: 124.9 mg/dL,124.8 mg/dL
    TG 150~199 mg/dL: 130.1 mg/dL,131.5 mg/dL (P<0.05)
    TG 200~399 mg/dL: 125.0 mg/dL,127.4 mg/dL (P<0.05)

・ 非空腹時検体での検討
全体でみるとF-LDL-C値よりD-LDL-C値のほうが有意に高くなっており,これはTG値によるカテゴリーごとにみても同様であった。
  全体: F-LDL-C値 116.7 mg/dL,D-LDL-C値119.2 mg/dL (P<0.05)
    TG 150 mg/dL未満: 116.6 mg/dL,117.1 mg/dL (P<0.05)
    TG 150~199 mg/dL: 120.3 mg/dL,126.8 mg/dL (P<0.05)
    TG 200~299 mg/dL: 112.6 mg/dL,125.2 mg/dL (P<0.05)

F-LDL-C値とD-LDL-C値の相関をみると,空腹時/非空腹時をとわず,強い正の相関があることが示された。
F-LDL-C値とD-LDL-C値の差とTG値との相関をみると,測定法によるLDL-C値の差は,TG値が高いほど大きくなっていた。

NCEPによるLDL-C値のカテゴリー(100 mg/dL未満,100~129 mg/dL,130~159 mg/dL,160 mg/dL以上)を用いて,F-LDL-C値により分類した場合とD-LDL-C値により分類した場合の不一致の割合を検討した。
空腹時検体においては,F-LDL-C値によるカテゴリーとD-LDL-C値によるカテゴリーが一致しない割合が15.2%となった。TG値のカテゴリーごとにみると,TG≧200 mg/dLの場合は不一致の割合が顕著に高くなっていた(32.1%)。
一方,非空腹時検体においては,F-LDL-C値によるカテゴリーとD-LDL-C値によるカテゴリーが一致しない割合が19.8%であった。TG値ごとにみると,TG値が高くなるほど不一致の割合が増加しており,TG≧200 mg/dLの場合は不一致の割合が41.4%に達した。

(2) D-LDL-C値の心筋梗塞発症リスク予測能の評価(pubmed
D-LDL-C値により全体を4つのカテゴリー(100 mg/dL未満,100~119 mg/dL,120~139 mg/dL,140 mg/dL以上)に分けて急性心筋梗塞発症リスクを比較した。その結果,もっとも低いカテゴリーにくらべ,D-LDL-C値が140 mg/dL以上のカテゴリーでは多変量調整ハザード比が2.50(95%信頼区間1.02-6.09)と,有意なリスク上昇がみとめられた。

D-LDL-C/HDL-C比により全体を4つのカテゴリー(1.6未満,1.6以上2.1未満,2.1以上2.6未満,2.6以上)に分けて急性心筋梗塞発症リスクを比較した。その結果,もっとも低いカテゴリーにくらべ,D-LDL-C/HDL-C比が2.6以上のカテゴリーでは多変量調整ハザード比が3.50(95%信頼区間1.15-10.6)と,有意なリスク上昇がみとめられた。

- 結論 -
・ 一般住民において,非空腹時検体の場合,またはTG≧150 mg/dLの場合には,Friedewaldの式によるLDL-C値が,直接測定したLDL-C値よりも低いことが示された。非空腹時採血を行った場合や,TGが高値の場合は,Friedewald式を用いるべきではないと考えられた。
・ 厳密な標準化を行ったうえで直接測定したLDL-C値は,一般住民における急性心筋梗塞発症リスクと有意な関連を示した。このことから,十分な精度管理を行っていれば,疫学研究において直接測定によるLDL-C値をFriedewald式によるLDL-C値のかわりに用いることは可能と考えられた。

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4. 喫煙・飲酒と循環器疾患: 日本の疫学研究からの知見

東山 綾 氏 発表者:
東山 綾 氏 (兵庫医科大学 環境予防医学講座)

 喫煙と循環器疾患をめぐる最近の話題として,わが国の喫煙率が若い世代でまだ高いことが挙げられる。循環器疾患予防のためには,メタボリックシンドローム対策だけでなく喫煙対策も行う必要がある。
 また,飲酒について,少量~中等度であれば循環器疾患リスクを低下させることがこれまでに報告されているが,γ-GTP値が高い人では,少量~中等度の飲酒であっても虚血性脳卒中のリスクが高くなることが示された。γ-GTPは肝機能の指標としてだけでなく,脳梗塞リスクの指標としても有用である可能性がある。

- 喫煙と循環器疾患 -
◇ 喫煙者の循環器疾患発症・死亡リスク
NIPPON DATA 80から,1日21本以上の喫煙が男女とも脳卒中死亡リスクと有意に関連すること,また,男性では1日21本以上の喫煙が冠動脈疾患死亡リスクと有意に関連することが示されている(抄録へ)。 また,JACCJPHCおよびThree-Prefecture Cohort Studyの3つの大規模コホート研究のデータをpooled解析した結果からは,男女とも,喫煙者は非喫煙者にくらべて冠動脈疾患死亡リスクおよび脳卒中死亡リスクがいずれも有意に高くなることが示された(Tobacco Control. 2010; 19: 50-7. pubmed)。

循環器疾患発症リスクについては,JPHCから,喫煙と脳卒中発症リスク(抄録へ),ならびに喫煙と冠動脈疾患発症リスクが関連することが示されている(抄録へ)。

◇ 禁煙者の循環器疾患発症・死亡リスク
JACCJPHCおよびThree-Prefecture Cohort Studyの3つの大規模コホート研究のデータをpooled解析した結果から,10年以上前に禁煙した男性では,現在喫煙者にくらべて冠動脈疾患発症リスクおよび脳卒中発症リスクが有意に低いことが示されている(Tobacco Control. 2010; 19: 50-7. pubmed)。

◇ 喫煙をめぐる現在の問題
・ わが国の喫煙率の推移
男性の喫煙率は1965年には80%以上であったが,経年的に低下し,2009年には40%を切った。ただし米国の27.5%(1999~2002年)にくらべるとまだ高いといえる。一方,女性ではゆるやかな低下傾向がみられ,近年は10数%と,米国の女性(21.8%[1999~2002年])の1/2程度の喫煙率である。
年代別にみると,20~40歳代の男性では60歳以上にくらべての喫煙率の低下がゆるやかであり,女性では,20歳代,30歳代でやや上昇する傾向もみられた。以上の結果より,男女とも,若い世代に対する禁煙指導の強化がのぞまれる。

・ 喫煙の人口寄与度割合
吹田研究において,喫煙とメタボリックシンドローム(MetS)という2つの因子をあわせもつ人では循環器疾患発症リスクが高くなること,ならびに,MetSによる循環器疾患発症リスクと喫煙による循環器疾患発症リスクはほぼ同等であることが示されたことから,循環器疾患予防のためにはMetS対策だけでは不十分であり,喫煙についても引き続き対策を行うことが重要と考えられた。また,喫煙による人口寄与度割合を計算した結果,もし喫煙者がまったくいなければ,男性では循環器疾患の33.7%,女性では13.8%が防げると考えられた(抄録へ)。

- 飲酒と循環器疾患 -
◇ 飲酒と循環器疾患リスク
JPHCにおいて,「ときどき飲酒する人」を対照として飲酒量と脳卒中発症リスクの関連を検討すると,J字型の関連がみられた。病型別にみると,出血性脳卒中については飲酒者の有意なリスク増加がみられたが,虚血性脳卒中については飲酒者のリスク増加はみとめられなかった(抄録へ)。
大阪職域コホート研究の男性勤務者において飲酒量と冠動脈疾患発症リスクとの関連をみると,U字型の関連がみとめられ,1日のエタノール換算摂取量が46~68 gの飲酒者では,有意にリスクが低下していた(抄録へ)。

◇ γ-GTPと循環器疾患発症リスク
γ-GTP値は肝機能の指標として知られ,飲酒者ではしばしば高値となるが,近年,循環器疾患リスクとの関連も指摘されている(NIPPON DATAの抄録へ)(CIRCSの抄録へ)。

吹田研究の男性において,γ-GTP値ごとに少量~中等度の飲酒と循環器疾患発症リスクの関連を検討した結果,冠動脈疾患については,γ-GTP値にかかわらず,飲酒量が多いほど発症リスクが低い傾向がみとめられた。一方,虚血性脳卒中については,γ-GTP値が中央値(32 IU/L)以下の場合は飲酒者のリスクはおおむね非飲酒者より低かったものの,γ-GTP値が中央値を超える場合は,少量飲酒者および中等度飲酒者における著しいリスク増加がみられた(抄録へ)。

- 結論 -
・ わが国の喫煙率は若い世代でまだ高い。
・ 禁煙により循環器疾患のリスクを低下させることが可能である。
・ 循環器疾患予防のためには,メタボリックシンドローム対策だけでなく喫煙対策も行う必要がある。
・ 飲酒量と循環器疾患リスクはU字またはJ字型の関連を示す。
・ γ-GTP値が高い人においては,少量~中等度の飲酒であっても虚血性脳卒中のリスクが高くなることが示された。γ-GTPは肝機能の指標としてだけでなく,脳梗塞リスクの指標としても有用である可能性がある。


icon 東山 綾氏に聞く: γ-GTPは循環器疾患のマーカーとしても有用な可能性

―若い世代への禁煙指導について,実際の診察や保健指導の場ではいかがですか。

東山 月に数回,健診や人間ドックの診療を担当していますが,若い方はそもそも健診にあまり来ませんので,難しい面はあります。私は,義務教育の期間中に,より積極的にたばこを含めた生活習慣指導を行うのが効果的ではないかと考えています。生活習慣に関する学習は,自治体によりまちまちなのが現状です。滋賀医科大学では公衆衛生分野の実習として,医学生が近隣の小学校でたばこなど生活習慣について授業をする機会をいただいていました。これはそうした取り組みのほんの一例であり,いろいろなアプローチがあると思います。国民全体で動脈硬化性疾患を予防するために,今後はそういった取り組みを広げていければと思いますし,われわれ疫学研究者も,そのような場にもっと参加していければと考えています。

―γ-GTPについて,健診で高値が出たら循環器疾患リスクの心配をするべきということになるのでしょうか。

東山 γ-GTPの肝機能指標としての重要性には変わりはありませんが,それだけではなく,循環器疾患リスクを予測するマーカーとしても使える可能性があるということです。γ-GTPはすでに健診や外来で広く測定されており,新たな測定費用がかからない点も大きなメリットです。今日のシンポジウムに出席された日本各地の先生方も,「自分のコホートでも検討してみたい」とおっしゃっていました。今後,いろいろなコホートのデータが蓄積されていくことで,より信頼性の高い評価が可能になると思います。

―先生は現在,兵庫県のコホート研究に携わっていらっしゃるのですか。

東山 現在新たなコホート研究として,神戸市民を対象にした神戸トライアル(the KOBE Study)を立ち上げています。これまで脳卒中や冠動脈疾患など重篤な疾患について検討した研究はたくさんありますが,「その前の段階」をエンドポイントとしたコホート研究はあまりありません。そこでわれわれは,高血圧や高脂血症など,循環器疾患の危険因子をエンドポイントとして,リスクが高い人をより早期に発見できるよう検討を進めたいと考えています。降圧薬や脂質低下薬を服用していない地域住民の方を対象とした,非常に貴重なコホートになる予定です。また兵庫医科大学でも,同じ県内で神戸とは異なる特性をもつ地域においてコホート研究を立ち上げるべく,準備を始めています。地域による比較検討などを行うことができれば,さらに有意義な研究になると考えています。




5. 脂質異常症と脳卒中の各病型のリスク: Circulatory Risk in Communities Study(CIRCS)より

大平 哲也氏 発表者:
大平 哲也 氏 (大阪大学大学院医学系研究科 社会環境医学講座 公衆衛生学)

 日本人における総コレステロール値と脳卒中および各病型の発症リスクとの関連を検討するとともに,米国の前向きコホート研究との比較を行った。日本人では総コレステロール値と脳梗塞リスクとの関連はみとめられなかったが,脳梗塞のタイプ(ラクナ梗塞/非ラクナ梗塞)によって総コレステロール値との関連が異なる可能性が示唆された。今後,欧米で多い非ラクナ梗塞が日本人でも増えてくると,総コレステロール値がその危険因子となる可能性がある。

- 背景・目的 -
高コレステロール血症は冠動脈疾患リスクと関連することが知られているが,脳卒中リスクとの関連についてはまだ見解が一致していない。研究によって異なる結果が出る背景として,人種,その集団のコレステロール値などが影響している可能性がある。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,総コレステロール値と脳卒中および各病型の発症リスクとの関連を検討するとともに,米国の前向きコホート研究との比較を行った。

- コホート・手法 -
(1) 日本の前向きコホート研究: CIRCS(Circulatory Risk In Communities Study)
1980年代にベースライン健診(秋田県井川町: 1985~1990年,茨城県旧協和町: 1985~1991年,大阪府八尾市: 1985~1994年,高知県旧野市町: 1985~1990年)を受診した40~69歳の男女12475人を10年間追跡した。
(→CIRCSへ

(2) 米国の前向きコホート研究: ARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)Study
1987年にベースライン健診を受診した4地域(ノースカロライナ州フォーサイス,ミシシッピ州ジャクソン,ミネソタ州ミネアポリス,メリーランド州ワシントン)の45~64歳の男女15792人を13年間追跡した。人種(白人,黒人)ごとの解析を行っているのが特徴。

- 結果 -
◇ ベースライン時の総コレステロール値
ベースライン時の総コレステロール値の平均は,ARICの白人では男性218 mg/dL,女性211 mg/dL,ARICの黒人ではそれぞれ218 mg/dL,211 mg/dL,CIRCSでは195 mg/dL,183 mg/dLであった。
総コレステロール値の分布をみると,ARICの白人,黒人では200 mg/dL付近をピークとした正規分布に近い形がみられたが,CIRCSでは全体的に200 mg/dLより低値の人が多かった。

◇ 心血管疾患発症状況
心血管疾患発症状況をみると,日本人ではアメリカ人にくらべて冠動脈疾患(CHD)が少なく,脳卒中のなかではラクナ梗塞が多かった。アメリカ人では逆に,非ラクナ梗塞(太い血管に血栓ができるタイプ)が多かった。

◇ 総コレステロール値とCHDリスク
・ ARICの白人: 男性では,総コレステロール値が高くなるほどCHD発症リスクが高くなっており,150~199 mg/dLのカテゴリーに比して220~239 mg/dL,240 mg/dL以上のカテゴリーで有意差がみとめられた(それぞれ多変量ハザード比1.4,1.5)。女性でも同様の傾向がみられたが,有意差はなし。
・ ARICの黒人: 男女とも,総コレステロール値が高くなるほどCHD発症リスクが増加する傾向がみとめられたが,有意差はなし。
・ CIRCS: 男性では,総コレステロール値が高くなるほどCHD発症リスクが高くなっていた。240 mg/dL以上のカテゴリーでは150~199 mg/dLのカテゴリーに比した有意差がみとめられ,多変量調整ハザード比は2.76と,アメリカ人にくらべて高いものであった。女性でも同様の傾向がみられたが,有意差はなし。

CHDに対する高コレステロール血症(総コレステロール≧240 mg/dL)の人口寄与度割合を計算すると,ARICの白人では男性9.2%,女性4.6%,ARICの黒人ではそれぞれ9.5%,5.5%,CIRCSでは6.6%,2.2%と,日本人ではアメリカ人より寄与度が低かった。

◇ 総コレステロール値と脳梗塞リスク
・ ARICの白人: 男性では,総コレステロール値150~199 mg/dLのカテゴリーにくらべ,149 mg/dL以下,220~239 mg/dL,240 mg/dL以上のカテゴリーにおいて,脳梗塞発症の多変量調整ハザード比が有意に高かった。女性でははっきりとした関連はみとめられなかった。
・ ARICの黒人: 男女とも,総コレステロール値と脳梗塞リスクとの関連はみとめられなかった。
・ CIRCS: 男女とも,総コレステロール値と脳梗塞リスクとの関連はみとめられなかった。

脳梗塞発症に対する高コレステロール血症(総コレステロール≧240 mg/dL)の人口寄与度割合を計算すると,ARICの白人では男性10.9%,女性は算出できず,ARICの黒人ではそれぞれ2.5%,4.6%,CIRCSでは0.9%,0.6%であり,日本人では寄与度が小さいことが示された。
この理由として,人種による脳梗塞の内訳の違い(白人では非ラクナ梗塞の割合が高く,黒人ではラクナ梗塞の割合が高い)が影響している可能性が考えられる。

そこで,CIRCSでも脳梗塞の内訳(ラクナ梗塞/非ラクナ梗塞)ごとに総コレステロール値と発症リスクとの関連を検討した結果,ラクナ梗塞については男女ともはっきりした関連はみとめられなかった。非ラクナ梗塞については,総コレステロール値が高いカテゴリーで多変量調整ハザード比が高くなる傾向がみられたが,有意差はみとめられなかった。

◇ 総コレステロール値と脳出血リスク
・ ARICの白人: 男性では,総コレステロール値が対照(150~199 mg/dL)より高くても低くても脳出血発症のハザード比(多変量調整)が高めになる傾向がみられたが,有意差はなし。女性でははっきりとした関連はみとめられなかった。
・ ARICの黒人: 男女とも,総コレステロール値と脳出血リスクとの関連はみとめられなかった。
・ CIRCS: 男女とも,総コレステロール値と脳出血リスクとの関連はみとめられなかった。なお,CIRCSの1960年代の健診受診者を対象とした検討では,総コレステロール低値が脳出血発症リスクと関連することが示されていた(pubmed)が,1980年代になって集団の総コレステロール値が上昇したために,今回の検討で有意差がみられなかったと考えられる。

- 結論 -
日本人一般住民において,総コレステロール値と脳梗塞リスクとの関連はみとめられなかったが,脳梗塞のタイプ(ラクナ梗塞/非ラクナ梗塞)によって総コレステロール値との関連が異なる可能性が示唆された。今後,欧米で多い非ラクナ梗塞が日本人でも増えてくると,総コレステロール値がその危険因子となる可能性がある。


COLUMN
セッション「新ガイドライン2012に向けて」より
新ガイドラインにおける動脈硬化性疾患の絶対リスクの評価
枇榔 貞利 氏 (Tsukasa Health Care Hospital)
枇榔 貞利氏

2007年の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは,NIPPON DATA80のリスクチャート(抄録へ)が引用されたが,このリスクチャートができたことにより,はじめて日本人における絶対リスクの評価が可能になった。

リスクの評価には,相対リスクと絶対リスクの2つの方法がある。相対リスクは,ある危険因子をもつ人ではもたない人にくらべて何倍のリスクがあるか,すなわち危険因子の強さを表す。一方,絶対リスクは,複数の危険因子を評価することで,ある人が一定期間内にイベントを起こす確率を表す。動脈硬化性疾患の多くは多因子疾患であること,また「10年以内に冠動脈疾患(CHD)を起こす確率は何%」といった具体的でわかりやすい評価が可能であることから,リスクの評価には絶対リスクを用いるのが望ましいと考えられる。欧米のガイドラインではすでに絶対リスクによる評価が行われている(NCEP-ATP IIIガイドライン: フラミンガム心臓研究のリスクスコア,ESC/EASガイドライン: SCOREチャート[pubmed])。

日本でも,2009年から現在にかけて,久山町研究(抄録へ),JMSコホート研究,JALS-ECC(抄録へ)から続々とリスクスコアやリスクチャートが発表され,ようやく絶対リスクによる評価が可能になってきたといえる。信頼性の高いリスクスコアの条件としては,高い追跡率,十分なコホート規模,日本人を代表するサンプルであることなどが求められ,現在これを満たすのはNIPPON DATA80のリスクチャート(抄録へ)と考えられる。

そこで新しいガイドラインのドラフトでは,脂質値の管理区分の設定に,NIPPON DATA80のリスクチャートによる絶対リスク評価を用いた。具体的には,リスクチャートから算出した10年間の冠動脈疾患死亡率によってリスク分類を行い(低リスク: 0.5%未満,中等度リスク: 0.5~1.9%,高リスク: 2.0%以上),さらにその他の危険因子の保有状況も考慮したうえで3段階の管理区分を設定する。この管理区分によって,LDL-C,HDL-C,トリグリセライド,non-HDL-Cの管理目標値が定められる。

ただし,絶対リスクによる評価には課題もある。一般に,このようなリスクチャートでは年齢の寄与度が大きいため,高齢者ではリスクの過大評価,若年世代では過小評価の可能性があり,注意が必要である(なお,新しいガイドラインでは後期高齢者は対象外となる)。また,種々のリスクスコア・リスクチャートは,そのもととなるコホート研究ごとに疾患発症率の地域差やエンドポイントの定義の違いが出てくるため,用いるツールによって算出されるリスクが異なることに留意しておく必要がある。



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